紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(11)

「妖夢どの、今日はここまでとさせてくれ。

ん、まぁ、ご主人様があのとおりなのでね。

……今夜は大仕事になりそうだ」

脂汗を滲ませながらネズミの従者が言う。

「風呂はムラサ……いや、それはマズいな。

おやぶーん! マミゾーおやぶーん! おーーい!」

どろろろりりん

白い煙と共に現れたのは大きな尻尾に眼鏡のお姉さん。

「なんじゃ騒々しい。

うん? この有様はどうしたことじゃ?」

いつも笑顔を絶やさない寅丸星が、わえわえぎゃろぎゃろと盛大に泣いている。

命蓮寺で希に見かけるこの珍現象、発生原因はいつも同じだった。

マミゾウがナズーリンをジロっと睨みつける。

「おぬし、またやらかしおったな?」

「い、いや、やらかしてはいないよ。

うん、そう、ちょっとした行き違いなんだけど」

「いつもその『ちょっと』が原因じゃろが」

「……う、むう」

寅丸星を本気泣きさせるのはこの世でナズーリンしかおらず、逆も然りだ。

「つまり、この娘を引き受ければよいのじゃな?」

「お願いしたい」

状況を説明し、魂魄妖夢の今日この後を大ダヌキに任せる。

「ふん、今回は高くつくぞ」

「ん、まぁ、お手柔らかに頼むよ」

必死の説得で主従二人はとりあえず部屋に戻ることになったようだ。

凸凹コンビがいなくなっても、妖夢はボーッとしていた。

「妖夢、だったかな?」

「あ! はい!」

声をかけられてようやく気づいた。

「儂は二ッ岩マミゾウ、寺の居候じゃ、改めてよろしくな。

今日だけはナズーリンに代わって案内しよう」

「よろしくお願いいたします」

大きな大きな尻尾をゆらりゆらりと揺らしながら歩き始めるタヌキ妖怪。

「あの、マミゾウさん」

「なんじゃな」

「寅丸さんとナズーリンさんは、その、どういった関係なんですか?」

先ほどのやりとり、タダならぬ関係であることは初心な妖夢でも想像がついた。

「んー、あの二人、立場は主従じゃが、見ての通りの恋人じゃ。

それもかなり仲がよい。

流行りの言い方をすれば【ばかっぽう】じゃな」

マミゾウさん、ちょっとだけ流行りに乗り遅れている。

「え? 女同士ですよ?」

「うむ、違いないな」

「だって、そんなのおかしいですよ!」

「ほう、なんでじゃ?

好き合っているなら障りはないじゃろ?」

「でも、でも」

表面的な一般良識を頼りに生きてきた妖夢にとっては理解の外にある状況だった。

「雄と雌が惹かれ合うのは繁殖のための単なる本能じゃ。

しかし、希にその本能に流されずに生涯の伴侶を求め続ける変わりモノもおる。

巡りあった相手がたまたま同性だったと言うだけのことじゃな」

「でも、でも、やっぱり非常識だと思います」

「狭い、狭いな……おぬしの狭い【常識】では受け止め切れぬかな?

この世はおぬしが思っているよりもずっと多様なんじゃぞ」

己が未熟を、世間知らずを、普段からちょいちょい思い知らされている妖夢はそれっきり黙ってしまった。

その様子を見ていたマミゾウはビックリするほど優しい顔で話しかける。

「ま、慌てることもない、何事もボチボチ行ったら良かろうて……

薬の湯の勝手は分かっておるな?

その後はナズーリンの部屋で休んでおれ、しばらくしたら呼びにいくから。

今夜はムラサ特製の【かれーらいす】じゃ。

期待して良いぞー、見た目はナンだが病みつきになる美味さじゃからな」

そう言ってヒト(?)懐こい笑顔を向けた。

それを見てとてもホッとしている妖夢。

なんだか安心できる、幽々子とはまた違った包容力。

経験の深さを感じさせるが、緊張しなくて済む親しみやすさがある。

「昨日は失礼しました」

翌日、いつにも増して機嫌が良く、なんだか艶々している寅丸。

片や、目をしょぼつかせ、げっそりしているナズーリン。

対照的な二人が妖夢を出迎えた。

それから数日は手合わせはなく、素振りを中心にした基本型の反復に終始した。

今日も気合いの入ったかけ声が『えいっ!』『えいっ!』と命蓮寺の庭に響く。

星とナズーリンの見立て通り、真面目で筋の良い妖夢の打ち込みは力強さと鋭さを増していった。

朝、庭の手入れを済まし、昼前から命蓮寺の雑務の手伝い、稽古の後は薬湯と夕飯をいただいてから白玉楼へ戻る。

ここ最近の妖夢のルーチン。

西行寺幽々子はまだ帰って来ていない。

『妖夢さん、今日はお寺の用事で午後から出かけなければなりません。

稽古はナズーリンに見てもらってくださいね』

ある日、寅丸から告げられた。

無理を言って時間を都合してもらっているのだから妖夢に否のあるはずもない。

ネズミの従者によろしくと声をかけようとしたが、何やら難しい顔をしている。

「ナズーリンさん、どうなさったんですか?」

「うん、実は私も急な用事が入ってしまっていてね。

どうしたものかと思案しているところなんだ」

「お寺のご用事なんですか?」

「いや、訳あって人里の茶店を手伝っているんだが、今日、突然女給の手が足りなくなってね。

ネズミの私が女給をするのも何だから困っているんだよ」

「そんなことなら私にお申し付けくださればいいのに」

妖夢が気軽に応える。

「待ってくれたまえ、由緒正しい白玉楼の筆頭侍者である魂魄妖夢どのに女給の真似事をさせたとあっては各所に申し開きができないよ」

「いえ、全く構いません。

最初から、できることは何でもお手伝いすると言いましたから」

「良いのかい?」

「はい! ナズーリンさんがお困りなのでしたら全力でお手伝いさせていただきますよ」

「そうかい? そう言ってもらえるとホントに助かる。

妖夢どのなら少なくとも三人分の働きをしてくれそうだし」

そう言ってニヨリと微笑んだナズーリン。

この時、妖夢の経験値がもっと高ければこの微笑みに潜んでいた【邪】を感じ取れただろう。

「私のことはちょくちょくバカ呼ばわりするくせに、不公平だよ、まったく」

店への道すがら珍しく愚痴をこぼす賢将。

「あの日、あの後、お部屋で何があったんですか?」

純粋な好奇心から質問する純粋培養の天然庭師。

「一晩中謝って、弁解して、宥めて、褒めて、そりゃもー、大変だったんだよ」

「それは大変でしたね」

「甘い言葉を繰り返し囁き、たくさんキスして体をまさぐり、噛んで舐めて、そしてその後は、まぁ色々だね」

あっさりと告白された。

言葉の意味を噛み締める都度、妖夢の目が丸くなっていく。

「あ、あの! そ、それ、それって!」

「それでも最後の一線は超えさせてくれないんだよな。

肝心なご本尊はアンタッチャブルって意味が分からん。

生殺しも限界だよ、子宮が疼きすぎて破裂してしまいそうだ」

「あ、あぼ、ばばば!」

初心な娘に高速スライダーをビシビシ投げ込む。

きりきり舞いだ。

「……ご主人様のことを思うと、どうしても悶々としてしまうよな。

勢いに任せて踏み込むべきか、待つべきなのか迷うよ」

動転している妖夢をニヤニヤ眺めている変態賢将。

「そ、その迷い、この白楼剣で切ってあげましょうか!?」

妖夢は精一杯、反撃してみる。

「気遣いは無用だ、この迷い、煩悩こそが私の生命力の源だから」

しかし力強く断言された。

人里では最大級の茶店、オーナーは命蓮寺の信徒であった。

最近、店の内装を西洋風にしたが今一つぱっとしないと言う。

女給に派手なメイド服を着せてはみたがどうにも付け焼き刃で野暮ったさが不評らしい。

相談を受けたナズーリンは店内をざっと見渡して言った。

『なっちゃいない……まっ! たっ! くっ! なっちゃおらん!』

紆余曲折はあったが、ナズーリンはこの店のプロデュースをすることになった。

まずはメイド風の女給の在り方から手を入れた。

これに関して言えば賢将には絶対不滅の自信がある。

ファーストクラスにしてアルティメット、天地開闢以来のパーフェクトな【メイド】を知っているからだ。

紅魔館の至宝、メイドオブザメイド、十六夜咲夜を研究し続けているナズーリンにはメイド(この場合、女給なのだが)の完成形がスペシフィックに見えている。

後はそこに如何にしてに近づけていくか、だけだった。

メイド服の余計な装飾を削ぎ、機能性を重視したシックなデザインに直した。

演技過剰な接客態度も改めさせ『当館(茶店だが)を訪れたのは主人の大切な客人。丁重に、真心を込めておもてなしする』コンセプトを説明し、女給たちに別の意味での演技を要求した。

控え目でいながら常に一歩先のサービスを提供する【上級メイド】の演技を。

接客方法や注文取りをざっと教わった半人半霊の少女剣士。

もとより賢く、気が利く妖夢にとっては何と言うことのない仕事だ。

仕事内容には全く問題ないが、少し、いや、かなり気になることがある。

(えっと、これって……)

従業員部屋で制服に着替え、ドア越しに顔を出して様子をうかがう。

今、フロアには妖夢の他に人間の娘が三人、出ている。

彼女たちのメイド服と自分のそれは別物のように見えるのだ。

色合いや上着のデザインは同じだが、短いのだ。

スカートの丈が。

娘たちの膝は完全に隠れているが、妖夢のそれは膝どころか太股の半分以上が露出している。

明らかに別物だ。

これではちょっと深めにお辞儀をしたら先日の教訓をもとに少し気合いを入れて穿いてきたビッグイベント用の絹の下着が見えてしまう。

「あの……ナズーリンさん?」

メイド娘と話をしていたナズーリンに声をかける。

「お、着替え終えたね、さあ、こちらに」

「こ、このスカート、短すぎやしませんか?」

「うん? 規定通りだけど?」

不思議そうに言う。

妖夢は訳が分からない。

「でも! 他のみなさんと比べると短いですよう!」

メイド(人間)を指さす。

「ああ、そのことか。

今日の妖夢どのは【サービス担当】だからね」

「はい?」

さて、本格的に訳が分からなくなってきた。

「お客様へのおもてなしの一環なんだけどね」

「はえ? でも、こんなサービスって変じゃありませんか!?

いくらなんでも無理がありますよう!」

「んー、だが、妖夢どのは『全力でお手伝いさせていただきます』って言ってくれたし。

とてもありがたいと思っているよ」

「う、ぐ、た、確かに……」

ナズーリンは真面目な顔で義理堅い妖夢の退路を断つ。

妖夢の経験値ではこの表情から思惑を読みとることはできないだろう。

膝が震えはじめ、顔が赤らんできた。

純情庭師はイーシャンテンだ。

(うふふー、いい顔だねー、可愛いなあ。

……よし、そろそろ勘弁してあげるかな)

世話焼き性のくせにイタズラ好きのネズミ妖怪は出オチの一発ギャグでからかっただけだ。

最初からこんな格好で接客させるつもりはない。

そもそもそう言う店ではないのだし。

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