紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(12)

からぽろーん

ドアベルが来客を告げる。

「いらっしゃいませ、お一人様でございますか?

……かしこまりました、ご案内させていただきます」

メイド女給が丁寧な挨拶で新規のお客を通す。

なんだか店内がざわついている。

ネズミのプロデューサーはとりあえず妖夢を放っておいて店内を見渡してみる。

ざわつきの原因は瞭然だった。

たった今、来店したお客はメイド服を着ていたのだ。

店内でメイドの扮装をしている娘たちも十分に器量好しだが、比べる相手が悪すぎる。

そのお客は本物のメイドだったのだ。

しかも、この世に数体しか確認されていない完全完璧完成体のメイドのうちの一体だった。

「あ、ナズーリンさん」

目が合ってしまった。

「や、やあ、咲夜どの」

紅魔館のメイド長がすっすっと優雅に近づいてくる。

緊張を隠せないナズーリン。

妖夢でさえ分かるほど緊張している。

だって尻尾がビーンと立っているんだもの。

「お久しぶりですね。

お目にかかれて嬉しゅうございます」

完璧なお辞儀の後、ふわりと微笑む。

同時に店内がどよめいた。

ちょくちょく人里を訪れる十六夜咲夜。

いつも無表情で必要なことしか話さないのだが、比較基準を無視するほど桁外れの容姿と洗練された物腰はいくつもの逸話や伝説を残している。

だが、人間たちはこんな笑顔、見たことが無かった。

沈着冷静、端麗瀟洒な十六夜咲夜がふんわり笑うなんて。

『おほおおーー! いいモン見れたーー』

店内の大方の感想だった。

気を取り直したナズーリンがたずねる。

「咲夜どの、奇遇だね、今日はどうされたのかな?」

「使いの途中でございます。

この店の評判を聞いておりましたので、少し寄ってみようかと。

そうしたらナズーリンさんに会えました。

今日の私はとてもラッキーでございます」

そう言って、また、微笑む。

美人、可愛い、素敵、綺麗、参りました、これを何と言えば伝えきれるのか。

いっそ、全部併せて【十六夜咲夜】を限定代名詞にした方が手間がなくないか?

ナズーリンは寺の縁でこの店の運営を手伝っている旨を伝えた。

「この店が繁盛しているのはそう言う訳ですか。

さすがです、ナズーリンさんに出来ないことはないのですね」

そして何度目かのニッコリ。

「い、いや、私は、その、大したことはしていないよ」

どうにもお尻と尻尾の間のあたりがむず痒い。

咲夜はナズーリンを尊敬している。

主人と、主人の友人の危機(?)を見事に収めた賢将を尊敬している。

咲夜ワールド内でのナズーリンは【万能の英雄】なのだ。

少しの勘違いと、強烈な思い込みで、かなーり美化されているのだが。

その【英雄】には無防備な笑顔を見せてしまう咲夜だった。

咲夜は英雄の隣でポケっとしている娘にようやく気がついた。

「あら、貴方は冥界料亭のチャンバラ屋さん……

確か……コンパクト・妖夢さんね?」

惜しい、正解まであとちょっとだ。

確かに小さくて可愛くて機能的な妖夢ちゃんだが。

「魂魄妖夢です! ご存知の筈でしょ!?」

微みょんに名前を間違えられ、ちょっと強めに言い返す。

完璧メイド長の基本対応はクールでドライ。

そして敵意を感じればそれなりに辛辣な返しをする。

今回、悪意があるのか天然なのか明瞭ではないが、『チャンバラ屋さん』と言ったあたり、揶揄が含まれていそうだ。

「お二人は面識が?」

ナズーリンが【一応】の体でたずねる。

「そうですね、知り合いの範疇に含めて差し支えないでしょう」

「咲夜さん、なんだか少し引っかかりますね」

異変がらみで直接対戦経験もあり、その後も紅魔館、白玉楼、双方の宴会で顔を合わせることも多い。

【結構】知り合いのはずだ。

「ところで妖夢、その服装は何のつもりかしら?」

いきなり呼び捨て、ほら、やっぱり知り合いだ。

咲夜がメイド服の妖夢を冷ややかに見下ろしている。

本職の目にはこの衣装は冗談にしか見えない。

メイド服は本来【作業服】だ。

機能的であることと、【印=マーク】としての制服の意味しかないはず。

それを面白おかしくセクシャルに崩してみせる表現形があるのは知っている。

だが、自分の仕事、立場に誇りと自信を持っている咲夜は受け入れられない。

絶対に許容できない。

「……みっともない」

明らかに蔑んだ表情。

凍りついてしまいそうな視線。

「あの、これは、その!

ナズーリンさんが着ろって!」

妖夢の必死の訴えを受け、途端に咲夜の周囲の空気が緩んだ。

「……ナズーリンさんが? ナズーリンさんが言ったの?

そうなのね?」

咲夜は何やら考え込んでいる。

(マ、マズい! この展開はマズい!)

ナズーリンの脳内ではアラームが『ヴィーム! ヴィーム!』と鳴り始める。

十六夜咲夜の最終奥義【激しい思い込み】と【素敵な勘違い】の必殺コンボが発動するパターンだ。

これまで十六夜咲夜に振り回され続けているネズミの賢将。

悪意がないのは分かっている、むしろ、善意からいろいろ気を回してくれる。

冷徹に見えるが、根は優しく思いやりの深い黒い星五つのドリーミーな娘なのだ。

だが、いつもタイミングが悪く、ナズーリンを絶体絶命の窮地に追い込んでいる。

それもすべて寅丸星がらみでだ。

千年の時を経て、寅丸星という永遠不換のパートナーを得たナズーリンが短慮な浮気に走ることはありえない。

そしておおらかな寅丸星も最愛のナズーリンが他の誰と何をしていようと気にしない。

信じている、自分自身よりナズーリンを信じているから。

だが、唯一の例外が十六夜咲夜だった。

奇跡のような美貌と全てにおいて示される高い能力、そして秘められた熱い情愛と献身。

咲夜が超特級の女性であることは間違いない。

簡単には突破できない【高嶺の花防護壁】と、紅魔の主人への忠誠心、そして少々クセのある性格のおかげで本格的に恋慕する無鉄砲者は今のところほとんどいないが、彼女の関心が万が一にもナズーリンへ向いてしまったら。

寅丸は十六夜咲夜だけは要注意とみなしている。

女性として、そしてヒトとしての魅力が、その桁外れの外見をはるかに凌駕していることが分かっているのだ。

十六夜咲夜とナズーリンが接触する度、心穏やかではいられない。

俗世間的に簡単にいうと【ヤキモチ】を焼くのだ。

そんな寅丸星の悋気を宥め、補填するために毎回、血が滲むほどの労力を費やしているナズーリンだった。

「いや、咲夜どの、これには少々訳があってだね……」

慌てて割って入るナズーリン。

「確かにそのスカートは【はしたない】短さだけど、ナズーリンさんの仰せならアナタは従うべきね」

「はあああ?」

妖夢は大混乱。

「あのだね、咲夜どの、これには少々訳があってだね……」

「ナズーリンさんの言うことに誤りはないわ。

きっと、何か深いお考えがあるのでしょう」

「そ、そんな考え、分かりませんよう!」

「だから、咲夜どの、これには少々訳があってだね……ねえ、聞いてる?」

「ならば私が手本を示しましょう、そのスカートを貸しなさい」

「まって! ダメだよ! 絶対にダメだ!!」

ナズーリンが思わず大声で制止する。

このメイド長は【やると言ったらホントにやっちゃう】タイプだから。

(((何故止める!? このバカネズミ!!)))

超級リアルメイドさんに注目していた店内の思念(ほぼ総意)がかなりハッキリと聞こえてくる。

「ダメなんだよ! 咲夜どの! キミはそんなことしてはいけない!」

「本日の下着には些か自信があるのですが」

至って真面目に応える。

確かに十六夜咲夜が外出時に穿く下着はモノスゴいとの都市伝説がある。

一般人なら一生の思い出になるレベル、息を引き取る直前の走馬灯の幸福なメモリアルとしてあの世へ持って行けるレベルと言われている。

「そそそそそ、それはそれで大変興味深いがちょっとまってくれ!

最大級のご褒美のレベルだ、容易く披露してはいけないよ!」

「わ、私は構わないって言うんですかー!?」

至極もっとな妖夢の抗議。

「頼む! 妖夢どの、キミはちょっとだけ黙っていてくれ!」

今は妖夢に構っている場合ではないのだ、いや、マジで。

「ナズーリンさん、申し訳ありません。

私、ご不快な思いをさせてしまったのでしょうか?」

そう言って、咲夜は少し俯き、唇をすぼめた。

ナズーリンの叱責(?)を受けたと思っているその顔は少し悲しげ。

(がほっ! キ、キュ、キューーートォ!)

「い、いやいやいやいや、不快なんて、とんでもない!

悪いのは私なのだ、うん、他にいない」

(やりすぎるといつもこうなってしまう、分かっているはずなのにな……

どうやって修正したものかな。

最も注意すべきは咲夜どのの【勘違い】だが……)

ナズーリンは脳をフル回転させて善後策を考える。

「妖夢どのはここしばらく命蓮寺で剣術の稽古に励んでいる。

私は単なるお世話係だがね。

今日はたまたま空き時間に店の手伝いをしてくれることになったんだよ」

嘘は言っていない。

マーベラスミスティークガール十六夜咲夜に対して半端な嘘はグランドカオスの引き金になりかねないから。

咲夜は一言たりとも聞き逃すまいと真剣な表情。

やがて軽くうなずく。

「分かりました。

これは妖夢にさせることに意味があるのですね?

私の差し出がましい申し出をお許し下さい。

分を弁えず失礼をしてしまいました」

頭を下げられても困ってしまうナズーリン。

咲夜はなにやらセルフ・コンクルージョン(自己完結)しているが。

「咲夜どのが謝ることなんか何もないんだよ、いや、ホント。

理解してもらえてうれしいけどね」

「どんな時もご寛容でいらっしゃるのですね」

そう言って本日大サービス中の笑顔。

「あのー、結局、私はどうすればいいんですか?

やっぱりこれ、ちょっとエッチな気がするんですけど」

蚊帳の外に置きっぱにされていたミニスカ妖夢が抗議を再開させる。

咲夜が一転して厳しい表情を庭師に向けた。

「妖夢? アナタ、ナズーリンさんにお世話をしていただいているんでしょ?

文句を言う前にやれることをやるべきでしょ?」

「え、ええ、そうですけど……でも、見えちゃうし……

何でこんな変なことが必要なのか分かりませんよう」

「お側にいながらアナタはナズーリンさんの真摯な姿から何も学べていないようね。

アナタもそして私も主に仕える立場として、従者にして賢者たるナズーリンさんから学ぶことは山のようにあるはずよ。

歪な性欲などとは無縁の純粋で献身的な従者として在り方を。

ナズーリンさんは奥ゆかしいからアナタには言わないのでしょう。

だから私が代わりに言いましょう。

ある時、私の難題に明快な解答を下さったわ。

その時に申し出された報酬も、ご主人、寅丸さんを思ってのことだったのよ。

敬慕する主人に快適な肌着を身に着けてもらおうと、私などに頭を下げたの。

そこには自分の邪な欲望など微塵も無かったわ。

深遠な叡智のすべてを仕える主に捧げていらっしゃるのよ」

抑えた口調ながらキッパリと告げた。

押しまくられ、あうあう言っている妖夢。

だが、もっと、あうあう状態なのはもう一人の方だ。

「あ、あの、咲夜どの、も、もういいよ」

クール変態の賢将が赤面している。

大変珍しい光景だ。

「これほど清廉な忠義の士、ナズーリンさんの言葉を疑うの?

己の未熟こそを恥じなさい。

代われるものなら私が代わりたいくらいよ」

「あ、あの、もう勘弁してください……

なんだかいろいろごめんなさい……

生まれてきてゴメンナサイ……」

泣きそうなナズーリン。

「おおよその事情は分かりました」

人手が足りない事実を少し大げさに強調し、スカートの件は今日のところは必要なしと言ってなんとか二人を丸め込んだ三流詐欺師ナズーリン。

(まったく、自分で蒔いた種とは言え、咲夜どのが関わると数十倍になって返ってくるな。

まるで正面トスバッティングだよ)

「ナズーリンさん、いつもお世話になってばかりでございます。

そういうことなら私を頼ってくださいませ。

今は休憩時間、私の時間でございます。

これよりしばらくの間、【咲夜】は貴方にお仕えいたします」

自分を【咲夜】と言った時、軽く胸元を押さえていた。

ほんのり恥ずかしそうに。

タイトルは《 可憐 》で問題ないだろう。

ナズーリンの膝から力が抜けてしまった。

へたり込みそうになった。

(い、いかん! これはマズい!

さ、咲夜どの! これ以上、私を惑わしてくれるな!)

「さ、妖夢、私たちもお手伝いをするわよ。

急いで着替えましょう。」

颯爽と従業員部屋へ向かう咲夜に妖夢は慌ててついて行く。

からぽろーん

「いらせられませ」

そして−−−咲夜の世界−−−が始まった。

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