紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(13)

「咲夜どの、お見事だったね」

「恐れ入ります」

ハードタイムをこなし、代わりの女給たちもやって来たので外様二人はアガリである。

約二時間の【ショータイム】はあっという間だった。

序盤こそ自ら手本を示していた咲夜だが、30分もしないうちに妖夢を含めた四人は【フロア責任者】の合理的できめ細やかなサービスの意図をある程度理解できた。

その後の咲夜は目線と指先の動きだけで的確な指示を出し、店全体を完全に支配した。

来客も多く、慌ただしい時間帯のはずなのに不思議とリラックスできる雰囲気。

お客は皆、十分な【おもてなし】を感じ、満足していた。

「娘たちも良い勉強をさせてもらったはずだ、礼を言うよ」

この時店内にいたメイド装束の娘たち三人はそれぞれに確かなモノを得た。

【超一流の本物】をじっくりと見る。

これは、あらゆる学習方法の中で最大級の効果があるとされる。

この【めでたしめでたし】な空間の中、妖夢だけは面白くなかった。

かなり、とっても面白くない。

(私が中心でお手伝いするはずだったのに!)

確かに咲夜の際立った手腕は認めざるをえない。

自分も手伝いはできたのだが【持って行かれた】感がハンパない。

納得がいっていない。

実のところ、妖夢はナズーリンにイイところを見せたかった。

自分を翻弄しながらも大事なことを分かりやすく教えてくれ、ところどころ優しいこの不思議な小妖に役に立つところを見せたかった。

そして褒めてもらいたかったのだ、多分。

だから面白くない。

下唇を突き出し、少しやぶ睨み。

可愛い顔がかなり台無しだ、やめなさいって。

ナズーリンは妖夢のむくれ具合が分かったが、咲夜の手前、うかつにフォローを入れるわけにもいかない。

妖夢の不服オーラに反応したのはその咲夜だった。

「なーに? その顔は。

どうもアナタは言っただけでは理解できないみたいね。

体に教えるしかないのかしら?」

妖夢の不満がナズーリンに向けられていると解釈したらしいメイド長が突っかかった。

「それはどーもありがとうございます。

是非、教えていただきたいモノですね!」

今の妖夢は虫の居所が悪い。

売られた喧嘩はどんな高値でも買う気満々だ。

ちょいちょい顔を合わすこのメイド長。

いつも小馬鹿にされているような気がする。

従者同士、共感するところが無いわけではないが、主人に振り回されがちの自分を鼻で笑っているように見えた。

だからいつかガツンと言ってやりたいと思っていた。

このあたりの本当のところは咲夜本人に聞いてみなければ分からないが、普段はクールでシニカル、年相応の愛想が全くないメイド長が誤解を受けやすいのも確かではある。

別嬪さん二人が怖い顔でガンを飛ばし合っている。

なんだか色々もったいない光景だ。

(ありゃりゃ、さすがにこれはマズいな。

んー、しかし、待てよ……これは)

止めに入ろうとしたナズーリンはちょっと考える。

(これは良い巡り合わせかも知れない。

必要な機会かもね……よし)

「まぁ、まぁ、二人とも落ち着いて。

お互い言いたいこともあるのだろうね。

どうだろう? いっそのこと、手合わせしてみてはどうかな?」

咲夜と妖夢、同時にナズーリンに顔を向けた。

美しい白銀の髪がそれぞれ【しゃりん】【さらん】と鳴ったかも知れない。

三人は店を辞し、空き地に向かった。

「咲夜どのは武術家ではないが、かなり優秀な戦士だ。

それはキミの方がよく知っているはずだね?」

ナズーリンがみょんに鼻息の荒い妖夢に念を押す。

「はい、知っています!

でも、今度こそは、けちょんぱにしてやりますよ!」

異変側だった妖夢と鎮圧側だった咲夜は対戦経験がある。

その時はスペカ戦という特殊な戦いであったが軍配は咲夜にあがった。

しかし妖夢はスピード、攻撃精度、タイミング、ポジショニング、どれもほんの少しの差しかなかったと思っている。

紙一重で負けたのだと。

「いや、そうじゃなくてだね。

この手合わせはあくまで訓練、稽古の一環だ。

そこは忘れないようにね?」

「短い間ですが、ここ数日、力の限り修行をさせていただきました。

ナズーリンさん、その成果を是非ともご覧下さい!」

分かっているのか、いないのか、やる気満々、勝つ気満々だ。

妖夢主観では紙一重の差は逆転できているようだ。

なによりナズーリンにイイところを見せたい。

純粋な乙女心とはちょっと違うこの感情は何とも名を付け難い。

「咲夜さんは大したものだと思っていますよ。

頭が良くて、気が利いて、手際も良くて、料理は上手で、スタイルが良くて、その上ちょっと、かなり、とっても、スゴく美人で……だ、だ、だ、だからって負けても仕方ないなんて思っていませんから!」

「ちょ、妖夢どの? 大丈夫かい? 泣くことじゃないだろ?

ベクトルがずれてきていないか?」

何故だか涙ぐんでいる妖夢を気遣う。

(あ、やだ、なんで涙が出るんだろう……でも、負けたくない!)

妖夢が手にしているのは白楼剣。

そして咲夜は十数本のスプーンの束。

この店では木製のスプーンを使っている。

傷みが目立つと新しいものと交換するのだが、処分前のものが数十本あったので投げナイフの代用としてナズーリンが持ち出したのだ。

「えー、二人とも良く聞いて欲しい。

この手合わせは真剣勝負ではないからね?

だから私が危険だと判断したら止めるからね」

念のため咲夜に因果を含めようとナズーリンが歩み寄ると、当人はくるりと背を向けて離れて行った。

「あれ? 咲夜どの? ねえ、咲夜どの!」

小走りで追いかけるナズーリン。

ようやく立ち止まったコンバットメイド。

「一体どうしたの?」

振り返った咲夜は随分と離れてしまった妖夢をちらと見た。

釣られてナズーリンも振り返る。

白楼剣を抜いている半人剣士は絵に描いたような【きょとん】。

咲夜はちょっと屈んでナズーリンの耳に口を近づけた。

(え!? あのっ!? か、顔、近い、近いよー!

んはん、いい香りだあ〜〜)

動揺しているネズミに小声で話しかける。

「妖夢はナズーリンさんのところで稽古中なのですね?」

(あふ、息が耳にかかってるぅ〜〜)

「う、うん、まぁ、相手をしてるのはご主人様だけどね」

「斬撃の重さが不十分なのですよね?」

(……えっ?)

「彼女が剣を振るうのを何度か見ておりますし、対戦経験もありますから分かるつもりです。

妖刀の【性能】に頼りすぎです。

ヒラヒラと手数を増やすことに気が行き過ぎて肝心の一撃に力がこもっていません。

もし、強固な鎧を纏ったモノに力ずくで押し込まれたらひとたまりもないでしょうね」

「さ、咲夜どの……」

ぞくっ、ぞくり。

ナズーリンは震え上がった。

この洞察力、観察力、なんと優れた眼識か。

やはりすべてにおいて桁外れのスーパーウーマンだ。

なのにあの一連のナチュラルなパワーボケはなんなのだろう。

掴みどころのなさも最高水準だ。

「きっとそのあたりは是正されているのだろうと思いますけど」

ちょっと怖くなるほどの察しの良さだ。

「この手合わせで私なりのヒントを少しは示せると思います」

そう囁いてからネズミ妖の耳を、はむんと咥えた。

(ひゃうっ!)

そして、こりこりっ、と…… 噛んだ。

(あぐんっ!!)

あまりの官能インパクトにナズーリンはその場に崩れ落ちる。

「んふ……これは【お茶目】でございます。

お許しいただけますね?」

パーフェクトメイドが真面目な顔で言う。

何がどこまで本気で冗談なのか。

ホント掴みどころがないし、手に負えない。

(く、くはあー、くはああー!

ご主人以外には許したことのない耳への愛撫。

お、犯されてしまったよお〜!

でも、咲夜どのだから儲けモノなのかな、腰が抜けるほどヨかったし。

……い、い、いや、これっ、バレたら大変なことになるー!!)

見れば妖夢が思いっ切り眉をひそめていた。

(あ……トテモイヤナ・予感……)

「この白楼剣は迷いを断ちますが、肉体は斬りません。

多少は痛いでしょうけどケガはしませんからご安心を」

小刀を青眼に構えた妖夢が咲夜に言い放つ。

「あら、びっくり。

その剣が私に当たると思っているの?

【要らぬ心配】の世界大会があればアナタが優勝ね」

何故だか妖夢にはいちいちナスティな返しをする咲夜。

「そんな心配よりもこのスプーン、木でできていて丸みもあるからさほど危なくはないけど、思い切り投げるから当たったら痛いわよ」

スプーンを弄んでいた咲夜が少し考え込む。

「そもそも私に迷いなんかないけど、その剣、適わぬ願いとか妄想の類も斬れるのかしら?」

「……多分、そうだと思います」

ちょっと自信がなさそうに応じる妖夢。

「では万が一にもアナタの剣が当たった時のために私の妄想を言っておこうかしらね。

ナズーリンさんが紅魔館の執事として働いてくれたらな、と思っているわ」

「はあああ!?」

妖夢は口に出したが、ナズーリンは心の内になんとか留めた。

「ナズーリンさんは間違いなく超一流のバトラーになれるもの。

そしてナズーリン執事長の差配の元、私はメイド頭として今以上に館を整えてみせる。

……今の私の苦労や気遣いを理解して下さり、さりげなく、優しくフォローして下さるのよ!」

くわっ、と目を剥くメイド長。

これは大変珍しい表情だ。

「お嬢様やフランドール様もきっとお喜びになるでしょうね。

【紅魔館のナズーリン執事長】……とても素敵でしょ?

さあ! この想い、この熱情! 斬れるものなら斬ってみなさい!」

なんと。

エラい妄想が公開されてしまった。

これで一本書けそうなくらいの重量級のネタだ。

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.