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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(14)

「それまで!」

ナズーリンが終了を告げた。

互いに決定打が出ないまま膠着状態が続いたからだ。

序盤は妖夢が間を詰め、鋭い斬撃を繰り出し、メイド長は防戦一方だった。

多彩なフェイントに『えいっ! えいっ!』と力強い実撃が混じる。

だが、躱すのがやっとの咲夜だったが、一分もしないうちに攻勢に転じたのだ。

妖夢の力のこもった実撃だけに的確に対応し、間合いを取り、スプーンを投げはじめた。

今の妖夢が繰り出す虚実を織り交ぜた斬撃はかなりのものだ。

いくら卓抜した戦士である咲夜と言えど妖夢の攻撃を見切るのは早すぎる。

(あ……そうか)

首を傾げていたナズーリンだが、気がついてしまった。

今の妖夢の致命的な欠点に。

(これは分かりやすすぎる、うーん、マズいなあ)

片や咲夜の時間差を付けた投げスプーンは次第に妖夢を追い込んでいく。

だが、途中から防御に専念しはじめた剣士には隙が無くなった。

双方、次の手が打ちにくくなったところでナズーリンが終了を告げたのだった。

結果的には引き分けだが、明らかに咲夜が優勢だった。

「妖夢、以前よりはるかに力強い斬撃で少し驚いたわ。

メリハリのある攻撃……でも、ハッキリしすぎている。

つまり、虚実が分かりやすいと言うことよ」

「そう……なんですか?」

(確かに早いうちから完全に見切られていたみたい。

もしかして私、なにかクセがあるのかな?)

「だってアナタ、本気で打ち込むときだけ『えいっ!』って言うんだもの。

だから直前の口の形で分かるの」

「……え、ふぇん?」

妖夢は驚いたきり、暫し絶句。

(そうなんだよな、本気素振りの時は気合いを入れるために声を出させていたんだけど、素直というか何というか……)

ナズーリンはかける言葉が見つからない。

ちょっとなんだかなーの種明かしだ。

妖夢は見る見る赤くなっていく。

(な……なんてこと! バカみたい!

いえ、バカそのもの、私、バカだーー!)

「では、ごきげんよう」

まだ何か言いたそうだった咲夜だが、ショックを隠せない妖夢をみて、去ることにしたようだ。

ナズーリンと軽くアイコンタクト。

(後はお願いいたしますね)

(お任せあれ、どうもありがとう)

「わ、私、あのヒトの前でバカ丸出しでした!

せっかく稽古をつけていただいているのに、な、情けない!

う……うぐぐぐぅー」

咲夜が見えなくなった途端、ぽろぽろぽろぽろ涙をこぼした。

堪えていたのだろう。

ナズーリンに良いところを見せたくて懸命に剣を振るったのに、よりによって一番負けたくなかった十六夜咲夜の前で技能以前のおぽんちな様を晒してしまったのだ。

(一生懸命なのに少しすっぽ抜けてるこの感じ、参ったね、可愛いなあ。

でも、ここは慎重に慰めないといけないね)

少々邪な感想を抱きながら語りかける言葉を探すナズーリン。

「かけ声は気を付ければ良いだけだよ、大したことではない。

現に序盤は完全に妖夢どののペースだったしね。

それより大切なことを見落としてはいけないよ」

近づいて泣き娘の細い腰を優しく抱いた。

「へぐっ、大切なこと……ですか?」

ぐすぐす言っている妖夢、ナズーリンのスキンシップに抵抗が無くなってきていることに自覚はないようだ。

「咲夜どのの攻撃を受けて何か気づいたことはあるかい?」

まだスンスンしている妖夢だが、ぴったりと寄り添い柔らかく語りかけてくる世話役に自然と寄りかかる。

「え、と、フェイントと本気の違いが分かりませんでした。

分からなくなったから、結局は全てのスプーンに対応しなくちゃならなかったんです。

だから、途中からは防戦だけになりました。

ダメダメでした……ゴメンなさい」

「何故、分からなくなったのかな?」

「全部の攻撃が本気に思えました。

でも、それでいて全てがまやかしのようにも思えて……」

「実撃だけではどうしても単調になるから隙を誘えない。

勝負において虚実の組み合わせは重要だよね。

その虚実が区別しづらいとなれば有利になる」

「あ、はい、ごもっともですね」

妖夢もひとかどの武芸者だからこの理屈は分かっている。

だが、今日、ハッキリと分かった、身体で理解できた。

「先日の紅魔館でのご主人様の演武を見たんでしょ?」

「はい」

帰り道、落ち着きを取り戻した妖夢に少し砕けた調子で話しかけるナズーリン。

「アレを見たうえで挑もうって思うのはよほどの武芸者だ。

キミのようにね」

「いえ、自分の力量を知らないただの未熟者でした」

少し顔を赤らめる。

今なら分かる、武芸者と言っても寅丸星は全く別次元の存在だ。

本来のほんわかした雰囲気、特に強そうには見えず、素人が見れば近接戦闘、格闘戦は不慣れに見える。

せいぜい宝塔の力を利用した遠距離攻撃に注意すれば良いと軽く見られるだろう。

だが、その実体は無双の武芸者だった。

かなわない。

誰にも負けたくないと思う一方で自分が遠く及ばない力に強く憧れる。

その者がどこまで行くのか、はるか先を行く更にその先を見てみたいとも思う。

「おや? 諦めたのかい?」

ナズーリンがワザとらしい笑みとともに覗き込んできた。

「そ、そうではありませんが、その、一本取るイメージが全く湧かないんです」

あれ程の武才に恵まれながらも驕ることなく、千年もの間、一途に修練を重ねてきた武人。

本物の【天才】が誰よりも地道に途方もない努力を積んできたのだ。

簡単に勝てると思う方がどうかしている。

「うむ、それなら、必殺技を会得するしかないな」

「は?」

ネズミの世話役の言動にはいつも驚かされているが、今回は格別だ。

「必殺技だよ、必殺技。

ここ一番での逆転は必殺技しかないだろう」

「え、っと? よく分かんないんですけど……」

必殺技という胡散臭い単語がどうにも受け入れがたい。

「技というより戦術、戦法かな、一回だけのビックリネタだね」

「そんなので良いのですか?」

「その一回で相手を完全に仕留められれば十分じゃない?

初見殺しなんて言葉もあるくらいだしね」

「初見殺し……ですか」

なんだか耳馴染みのあるような単語。

「ご主人様のように【絶対一】(すべてを凌駕する一撃)の実撃を身に付けるには長い修練が必要だ。

今は並行して虚撃の術を磨くのことも必要だと思うよ」

確かに寅丸星の本気の一撃はフェイントもタコも関係ない躱しようのない必殺の攻撃だ。

その域にたどり着くまでには色々と工夫しなければならないだろう。

「必殺技のカラクリ、知ってるかい?」

「いえ、分かりません」

「最後に斬るのは正真正銘の【実撃】でしょ?

必殺技の正体はそこに繋げるまでの【フェイント】のことだよ」

「え? フェイントなんですか?」

「そう、ぶっちゃけ、目くらましだね」

ナズーリンも妖夢が寅丸から堂々と一本取れるとは思っていない。

それでも何とかしてやりたいと思っていた。

そのための結論は一発ビックリのフェイント技だった。

せっかく咲夜が虚実の妙のヒントをくれたのだし。

もちろん、半端なフェイントが寅丸星に通用する訳もないから策を練らねばならない。

「必殺技ですか? 古今東西、剣の必殺技はたくさんありますけど、私、なにをどうしたらいいんでしょうか?」

妖夢は未だ懐疑的だ。

「例えば【諸羽流青眼崩し】【円月殺法】【花吹雪抜刀流】うん、色々あるね。

最近では剣を思いっ切り振り回して技の名を叫ぶだけのよく分からん必殺技もあるようだが、あれはダメだよね、美しくない。

まぁ、私の知っている限りホントに感心したのは手裏剣術の【蟹の目】と薙刀の【浦波】くらいか。

あと、特殊戦法としての【虎の眼】かな」

「そうなんですか?」

妖夢は初めて聞く技ばかり。

「だが、所詮、必殺技なんて当てにならないからね」

「は? だったらなんで必殺技をすすめるんですか!?」

意図が分からず、反射的にむっとしてしまう、そりゃ無理もない。

「そんな顔しないで。

実撃と区別が付かないフェイントの有効性は先ほどの対戦で分かったんでしょ?」

「ええ、そうですけど……」

「だったら必殺技を考えよう、そして秘密特訓だ!」

「どうしてそうなっちゃうんですか!?」

今一つ合点がゆかない妖夢。

「妖夢どののトレードマークでもあるその大きな刀。

うん、やはりこれを利用した必殺技を考えるとしようよ」

ちょっと寄り道、人通りの少ない小道の切り株に座る。

途中ナズーリンが買った草餅を摘んでいる。

「ナズーリンさん、なんだか楽しそうですね」

妖夢は少し口を尖らせている。

目の前にいるネズミ従者が捉えきれないのだ。

とても丁寧に世話をしてもらっているし、大事なことを分かりやすく教えてくれる。

このヒトは優しいのだ。

それは寅丸星の武力と同じくらい確信している。

妖夢は言葉にできないほど感謝している。

でも、先ほどのスカートのことやマッサージの時のこと、寅丸星との関係など、全幅の信頼を寄せるには一抹の不安がある。

妖夢の低い経験値ではこの小柄な怪人はどうにも判断しかねる存在だった。

なにより先ほどの十六夜咲夜とデレデレしていた姿がとても不愉快だった。

この心境は自分でもよく分からない、でも、面白くなかった、嫌だった。

今もこの世話役は面白がっているように見える。

「それにしても長い刀だな、佐々木小次郎のようだね。

……名前くらいは知っているだろう?」

「はい、宮本武蔵と厳流島で対決したんですよね。

【秘剣・つばめ返し】が有名でしたね、負けちゃったみたいですけど」

「ほう、さすがだね」

剣士の端くれ、そのくらいは当然知っている。

「つばめ返しも必殺技ってことになるんでしょうか?」

「そうだろうね。

そして宮本武蔵は事前につばめ返しの正体を知っていた節がある。

だからこそ刀ではなく、【櫂】(かい)を使ったのだと言う説もある。

つばめ返しの間合いを崩すためだったんじゃないかな」

「ナズーリンさんはご存知なんですか?

見たことあるんですか? どんな技だったんですか?」

実態は解明されていない幻の必殺技、妖夢は身を乗り出した。

「そんなもん知らんよ」

あっけらかんとした返答。

「え? う、もー! 真面目に聞いているんですよー!」

とても期待したのに。

このヒトなら知っているかもって。

「直接見たことはないけど、どんな技か見当はつく」

「そうなんですか!?」

「あくまで推測だよ、それでも良ければ話すけど」

「お聞かせ下さい! お願いします!」

この捉えどころのない世話役の知性は疑いようがない。

武術に関しても深い造詣がある。

その彼女が語る伝説の必殺技の正体、聞き逃してなるものか。

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