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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(17)

秘密の特訓はその後、毎日の寅丸との稽古の後、30分ほど行なわれた。

いいかい? 動作は単純だ【一】で斬り下げ【二】で斬り上げるだけだ。

【一】、【二】の間がポイントだね、早すぎると間合いが開いたままだし遅ければ頭を割られてしまう。

相手の動きを見定め、タイミング良く斬り上げる。

この呼吸がキモだね。

だが、あくまで【一】で斬り伏せるんだと言う心構えありきだ。

ハッタリとバレたら【二】の攻撃は意味が無くなるんだから。

んー、なかなか横薙ぎのスピードが上がらないな。

斬り返しが弱いな、いや、キミが悪いんじゃない。

元々無理のある動きだし、女の子の腕力では尚更だ。

まぁ、だからこそビックリ技なんだけどね。

……だからー、根性だけでどうにかなる問題じゃないんだよ。

どうするかな。

庭掃除? 箒の持ち方? 落ち着いて説明したまえ。

興奮しすぎだよ。

竹箒は結構重い、まぁ、そうだね。

剣のように構えてみると分かる、と。

でも道具としては使えている、と。

箒の動き? あれは大げさに言えば【梃子の原理】だろう?

だからあまり力をかけずに自由に使える……あ、そうか!

「斬り上げる時は右手の握りを支点にして左手をグイっと引くんです!

その時、左手の握りを逆手にして力をかけます! こうです!!」

しぴゅんっ!!

「おお、速い! 速いね、いいね!

剣先の描く弧が小さくなるから当たりは浅くなるけど、十分意表を突くスピードだ。

うむ、浅さを補うために一歩踏み込んでみるか、出来そうかい?」

「やってみます!」

「よしよし、妖夢どののオリジナルっぽくなってきたぞー。

そうだ【妖夢のお掃除つばめ返し】と名付けるか?

……なんだねその顔は、変顔はやめたまえよ、色々台無しだぞ。

冗談だよ、冗談」

「とらまるー、最近ナズーリンと妖夢ちゃんが仲良いじゃない」

ある日ムラサが寅丸に声をかけた。

「秘密の特訓だそうですよ」

「あのコ、ナズーリンとずっと一緒だよ、気にならないの?」

「は? 何がですか?」

このヒト(ムラサ)は何を言っているんだろう?

寅丸は本気の返しだ。

相手が【16のヒト】でない限り寛容で余裕たっぷりな毘沙門天の代理。

「ちょ、素で返されるとこれ以上何も言えないなー。

まったく、アンタたちは……」

自分のことはトンと鈍いが他人の色恋沙汰にはちょっかいを出したがるラブリーキャプテン。

数日後、ナズーリンからGOサインが出た。

「今日、試してみよう」

「え、もう、ですか?」

なんだかんだで一ヶ月近く命蓮寺に通っている妖夢。

だが、技の修得を考えれば早すぎる。

「キミにはあまり時間がない、そうじゃないのか?」

ハッとする妖夢。

確かに短いが、長すぎる。

幽々子を待たせていると思い込んでいる妖夢にとっては長いのだ。

そしてネズミの賢者はきっと何もかもお見通しなのだろう。

(そうだ、いつまでも甘えてはいられないんだ……

今、私のやるべきことを果たさなければ)

「そうですね、分かりました」

様々な思いを秘めた返事はとても大人びていた。

「ご主人様、本日は妖夢どのと仕合っていただきたい」

ナズーリンが主人に請うた。

立場は従者だが最信の恋人が言うこと、寅丸に否のあるはずもない。

今日の妖夢は何か強い思いを秘めている。

立ち姿に貫禄めいたものが見えかけている。

一ヶ月前と比べたら雲泥の差だ。

【男子三日会わざれば刮目して見よ】と言われるが、女の子だって刮目してよ。

一月近くホントに頑張ったのだ。

「一本!! そこまで!!」

寅丸の袖口が僅かに裂けていた。

元よりどんな相手にも油断をするはずもない寅丸だが、にわか門人の今日、この時の凄まじい気迫に気を引き締め直していた。

『ぃえええーーい!!』

十分に間合いを取っていたはずなのにあと少しまで迫られた。

素晴らしい打ち込みだ。

全く無駄がなく、伸びやかで力強い神速と言えるほどの一撃。

しかし、残念、踏み込みすぎだ。

頭があいてしまっている。

即座に槍を振り上げたその時、寅丸の錬磨の感覚が【待て!】と叫んだ。

びふゅ! ぴしぃっ!

斬り上がった刀身が右の袖を捉えていた。

浅い、浅すぎる、一本も何もないのだがネズミの審判ははっきりと決着を告げた。

ナズーリンの裁決の意味を理解した武人・寅丸星は大きく飛び退り、間を空けた。

「魂魄妖夢さん」

「は、はい!」

寅丸星からフルネームで呼ばれ居住まいを正す。

「お見事です、素晴らしい二段技でした。

これが特訓の成果なのですね?」

「え、ええ、一応、そうなんですけど……」

袖口を掠めただけに終わってしまった。

「おおおー! 妖夢どの、キミはスゴイな!

尊敬するよ! まさかここまでやるとは!!」

ナズーリンが飛びついてきた。

残念な気持ちに沈みそうだった妖夢はびっくり。

(な、ナズーリンさん、こんなに喜んで……

全然一本に届かないのに……

あ、でも、そうか、私……私、寅丸さんの袖を切ったんだ!)

天下無双の武人を驚かせたのだ。

わずか一月ほどの稽古で。

少し冷静になって考えてみる、これって、スゴいんだよね?

形はどうであれ、あの寅丸星から一本取ったのだ。

百回挑んで一回成功するかどうかの奇跡。

その一回をぶっつけ本番で引き当てた魂魄妖夢。

運の善し悪しを超えた【何か】があったのだ。

「妖夢さん、貴方は卓抜した剣士です。

貴方はもっと、そう、もっともっと強くなるでしょう。

共に武術の道を歩む同志として今後も互いに切磋琢磨いたしましょう」

数十段は上にいる武神の代理から【同志】と呼ばれ恐縮してしまう。

生涯の目標に出会えた。

この出会いに改めて感謝の念が込み上げる。

「貴方の剣が斬るべきもの、そして守るべきのものために修練を続けましょうね」

「はい! 本当にありがとうございましたぁ!」

他にいう言葉があろうか。

「おめでとう、と言わせてもらうよ、これで【卒業】だね」

優しく微笑むネズミの従者。

妖夢は言葉が出ない。

このヒトと一緒にいた時間、決して長くはないのにたくさんのことが込み上げてきてしまったから。

何故だか無性に抱きつきたかった。

きっと寅丸がいなかったらそうしていただろう。

(も、もう、明日からは来ちゃいけない……のかな?

【卒業】したんだから、ダメなんだよね……)

何だか寂しくて悲しくてホントに泣きそうになった。

主人である幽々子のことがもちろん最優先のはずだ。

なのに寂しい、この二人に会えなくなるのが寂しい。

妖夢の様子を伺っていたナズーリンがポンっと手を打つ。

「ご主人様、どうだろう、これからも週に一回くらい稽古に通ってもらっては?」

「そうですね、私も相手が欲しいですからね。

妖夢さん、いかがですか?」

「は、はい! はひっ! 是非! 是非にーー!」

ナズーリンの提案に飛びついた。

(あ、あう、ナズーリンさん、ありがとう……)

『これはお土産だよ』

帰り際、妖夢はナズーリンから胡桃(クルミ)を数個渡された。

『ビタミン、ミネラルが豊富だから脳にも良いんだよ。

食べると頭が良くなる、かもだね〜』

にまーっと小狡そうに笑うが、妖夢はもう分かっている。

思考の硬い自分を戒めてくれているのだと。

『はい! ありがたく頂戴いたします!』

素直に受け取る妖夢を見たナズーリン、一拍おいて、今度は優しく笑った。

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