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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(19)

まずは屋敷の周囲を一回りしてみる。

胸の高さほどの垣根がある。

これも家と外との境界か。

さほど広くはないが庭もある。

人影は無いようだ。

垣根の隙間から庭に侵入する。

妖夢も武人の端くれ、気配を消すことくらいはできる。

だが、あの大妖怪の目を欺けるのかどうか。

しかし、ここまで来たのだ、何もせずに帰る訳にはいかない。

庭に面した縁側、その向こうの障子は全て閉まっている。

腰を落とし、低い姿勢でゆっくりと近づく。

縁側の端にたどりつき、屋内の様子に神経を集中する。

ヒトの気配がある、声が聞こえてきた。

「アナタはよくやってくれているわ」

「しかし、妖夢さんがかわいそうです」

「それはいつも言っているとおり、仕方のないことでしょ」

「そろそろ戻りませんと、あのコ、心配しているはずですから」

(幽々子さま……?)

聞き間違えるはずもない。

紫と幽々子の会話が漏れ聞こえてくるが、何かおかしい。

紫はいつものようだが、幽々子の言葉遣いがおかしい。

声は間違いなく本人のモノなのに話の内容も変だ。

二人は古くからの友人、対等の関係だったはず。

なのにこれではまるで……

「そうね、やっと安定してきたものね。

帰ってあげなさいな」

「はい、しばらくは大丈夫だと思います。

お夕飯をいただいたら戻りますね、今日は鶏肉と山菜の水炊きですよね?」

「……アナタの食い意地は昔からだけど、おかげで幽々子が途轍もない大食いと思われてしまっているのよ」

「相済みません、【こちら】におりますと次から次へと美味しいモノに出会えるのです。

それに霊体だからでしょうか、いくらでも食べられてしまうのです」

「うーん、確かに幽々子も体つきの割に健啖家だけどねぇ」

(幽々子さま……じゃないの? 誰なの!?)

思わず強めに息を吸い込んでしまった。

「だーれ?」

(しまった!!)

障子に近づいてくる人の気配。

妖夢はここで【逃げる】【隠れる】は悪手と判断した。

幽々子のこともとても気になる。

覚悟を決め、背筋を伸ばして待ち受ける。

静かに開いた障子。

「あらあら、まるでコソ泥ねぇ。

妖夢、アナタ、自分のしていることが分かっているの?」

八雲紫が乾いた声で問う。

少し後ずさってしまった。

すると、開いた障子の奥に西行寺幽々子が座っているのが見えた。

「あ、幽々子、さま……」

その姿は間違いなく幽冥楼閣の亡霊少女。

「いつからそこにいたの? 答えなさい」

境界の妖怪の口調は強くはないが抗いようのない圧迫感。

「あの、ほんの少し前から……です」

「アナタ一人でここに来れるとは思えないわねぇ。

誰と来たのかしら?」

『リスを追いかけていたら行き着いてしまった』

そう言って信じてもらえるかどうか。

それでも左右に視線を散らし、リスを探してみるが見あたる訳もない。

戸惑っている妖夢を見つめていた紫。

「まあ、それはどうでもいいわ。

それより、私たちの話、聞いていたのでしょう?」

そうだ、そこが肝心要のことだ。

「ゆ、幽々子……さま、そこにいる幽々子さまな幽々子さまは、ど、どういうことなんですか!?」

少し動転している妖夢、言葉の脈絡がおかしくなってしまっている。

「ふーん、どうやら結構聞いていたみたいねぇ。

困った娘だこと。

妖夢、従者の分際でアレコレ詮索するのはいかがなものかしら?」

ひと月ほど前も同じことを言われ、その時はただ畏縮してしまった。

だが、今日、この時の妖夢は腹を括っている。

ここ一番で覚悟を決めて事に臨むのは経験済みなのだ。

気を取り直して宣言する。

「私は幽々子さまの警護役です!

幽々子さまになにかあれば私が盾となります!」

「ふん、何を生意気なことを……

自分の置かれている状況が分かっていないのね。

どうしてくれようかしら?

幽々子のお気に入りだから命までは取るつもりはないけどねぇ」

口の端をつり上げただけの酷薄な表情。

完全に見下している。

下手(したて)に出るだけでは却って危険に思える。

ここで退いてはダメだ、前に出るんだ。

「何がどうなっているのか教えてください! さもないと……」

「さもないと? ……どうするつもり?」

庭に降りてくる八雲紫。

足を動かさず、すうーっと滑るように。

この大妖怪に懇願は通じないだろう。

そして理屈でかなう相手でもない。

まともに取り合ってはくれそうにない。

それなりの力を示さねば聞く耳を持ってくれまい。

(私が力と意思を示せるものはこれだけなんだ!)

背負っている楼観剣を引き抜こうと右手を振り上げる。

うひゃう!

なにかモフモフ柔らかいモノを掴んでしまった。

振り仰いでみると、ふわふわした毛の塊が長剣の柄にしがみついていた。

リスだ、その尻尾を掴んでしまったのだ。

小動物の個体判別は難しいが、さっきのリスだ。

きっとそうだ。

(このコ、いつのまに!

な、なにやってるのよ!? 邪魔しないで!

剣が抜けないじゃないのー!)

リスを追い払おうとしたが、すぐに気がつく。

(あ、そうか、楼観剣はダメだ)

当たる当たらないはともかく、殺傷能力のある得物を使う状況ではない。

あくまで自分の確固たる意思を示すことが目的なのだ。

気を落ち着かせ、腰の白楼剣を抜き、構える。

「そちらの剣なの? ふーん、破れかぶれって訳ではないのねぇ」

抜刀した妖夢の心境をそれなりに理解したのかも知れない。

「紫さま! 無礼は百も承知でございます!

真実は斬って知る! 私は他にやり方を知りません!」

『真実は斬って知る』

祖父の教えを曲解し、辻斬りまがいのことをしていた妖夢は寅丸星の教え受け、反省した。

そして本当に斬るべきものを見極めようと心に刻んだ。

今がそうなのか、正直、未熟な自分には分からない。

だが、今は剣を抜くべきだと判断した。

「少し見ないうちにそれなりに形になっているわねぇ」

武術の経験はない八雲紫だが、妖夢程度に後れをとるとは思っていない。

しかし、今の妖夢の構え、とても静かだがこれまでとは明らかに違う気迫を感じ取り、右足を一歩引いて身構えた。

あっったりまえだ。

本格正統派の天才武人、寅丸星がみっちり仕込み、賢将ナズーリンが丁寧に補正してくれたのだ。

違いが出て当然、出なくてどうする。

「御免!!」

だっと、踏み込み、真っ向唐竹割りの斬撃。

短刀なのに長刀のような【伸び】を感じる力強い一撃。

届くはずのない間合いだが、その迫力に紫は身を反らしてしまう。

大きく飛び込んで思い切り振り下ろした妖夢は低い姿勢のまま。

頭ががら空きだ。

その一瞬、紫はその頭に手刀を打ち込んでやろうと前に出る。

(今だーっ!)

このタイミングなら絶対外さない、外すものか。

会得したばかりの秘剣【魂魄妖夢のつばめ返し】が炸裂した。

ばぎゅうっ!!

白楼剣の短い刀身を補うために飛びかかるように踏み込んで薙いだ。

手応えは十分だ。

いや、十分すぎる。

(え? あ……? あああああああああーー!!)

妖夢のファイナルスラッシュが捉えたのは西行寺幽々子だった。

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