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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(20)

「ゆ、幽々子、さまーー!!」

「ひゃくーー!」

それぞれに幽々子に駆け寄る。

対峙していた二人の間に割って入り、紫を突き飛ばした幽々子は【つばめ返し】をまともに受けた。

間に入ったことで幽々子は白楼剣の最大切断軌道に身を置くことになってしまったのだ。

実剣だっら真っ二つになっていたかも知れない。

八雲紫に抱き起こされた幽々子。

意識が朦朧としているようだ。

「……紫さ、ま、お怪我は……ございません、か?……」

「ひゃく! アナタ、なんてことを! 大丈夫!?」

「はい……衝撃で、か、体中が痺れておりますが……大事ございません。

ゆ、幽々子さまにも障りは無さそうです」

魂魄家の宝刀である白楼剣は実体は斬らずに迷いを断つ。

そして幽霊を斬れば成仏させてしまうという。

西行寺幽々子は成仏することのない亡霊だと聞かされているから大丈夫なのだろう。

だが、妖夢の目の前で横たわっているこのモノは誰なのか?

(違う、幽々子さまじゃない! 誰? 幽々子さまはどこに!?)

予想外の展開が続き、問い質したいことがあるのに言葉が出てこない。

「ねぇ、ひゃく。

本当に大丈夫なの?」

幽々子(?)の頭を優しく撫でながら紫が聞いている。

「はい……もう平気です。

逆に晴れ晴れとした気持ちになってまいりました」

(そういえば、【ひゃく】って呼んでいるよね?)

「あの剣で斬られたかしら? 迷いを斬るらしいけど」

「そうでしたね、【白楼剣】は私の中の迷いを断ち切ってくれたようです」

そう言って幽々子(?)は暫くの間紫を見つめた。

「どうしたの?」

「……紫さま、私はもう、妖夢さんに全て打ち明けようと思います」

紫の家の居間にあげられた妖夢、大きな座卓につき、紫、幽々子と正対した。

さきほどのリスがいつの間にか正座している膝の上で丸まっていたが放っておいた。

だってこのリスはきっと……

「妖夢さん、私は八雲碧(やくも ひゃく)と申します」

目の前にいる西行寺幽々子の姿をしたモノから告げられた。

(やっぱり幽々子さまじゃなかったんだ……)

妖夢は予想していたからか、思ったより驚かなかった。

「八雲紫さまの【式】なのです。

正体は蛇の妖怪【化け蛇】です」

化け蛇、精巧な変化(へんげ)を得意とする上級妖怪。

対象の体に入り込み心身を乗っ取り、操ることもできる。

「西行寺幽々子さまが眠りについている間、代わりにお体を動かしていたのです。

長い間、幽々子さまに成り済まし貴方を騙していたことになります。

主命とは言えど、心苦しい日々でした」

白楼剣の一撃は碧(ひゃく)の長年にわたる悩み、迷いを断ち切ったのだ。

八雲紫も彼女の意を汲み、告白を許したようだ。

「初めに気づいたのは貴方のお爺さま、魂魄妖忌さんです。

時折、幽々子さまの意識が薄れることに。

突然、とても眠くなって、どこであろうと寝てしまうのだそうです。

それではあまりに危険なので紫さまが私を【憑けた】ました。

すぐに起きることもありますが、何日も眠ることもあります。

その間、私が幽々子さまとして日常の対応をしていました。

……これからもそうするでしょう」

八雲碧が真剣な表情で妖夢を見つめる。

言いたいことは分かる。

正体を明かしたこの後、自分とどうやって接するのか、と。

「私は幽々子さまを尊敬しております。

私を受け入れて下さり、記憶のほとんどを共有し、西行寺幽々子として振る舞うことを許して下さいました。

全てを知ったうえで受け入れる広い度量、そして、誰よりもお優しい」

妖夢にしてみれば言われるまでもないことだ。

この方ならと、身命を賭して尽くしてきたのだから。

「妖夢さん、この御方は貴方のことをとても大事に想っていますよ。

心身共に健やかに育ってほしいと願い、優しく見守り続けておられます。

そして私も妖夢さんをずっと見てきました。

どれほど心を込めて幽々子さまに仕えてきたか知っています。

……騙し続けていた私が言っても意味はありませんが……」

少し肩を落とし俯いてしまった幽々子=八雲碧。

妖夢は困っている。

幽々子の自分に対する心情を改めて聞かされ浮き上がってしまうほど嬉しいが、これからのことが大事なのだ。

(幽々子さまなのに幽々子さまではない幽々子さま……)

今後、この【八雲碧】という妖怪とどうやって向き合っていけばよいのか。

碧と同じように俯くと、膝に乗っていたリスと目が合ってしまった。

(どう答えたらいいんでしょう?)

リスに目だけで助けを求めた。

いつぞやの寅丸星と同じだった。

大きな座卓のおかげで正面にいる二人からは妖夢の膝は見えていない。

リスはクリっとした黒い目で妖夢を見上げている。

{ふむ、キミは以前から何か違和感を覚えていたんだろ?}

{ええ、【advanced幽々子さま】といつもの幽々子さまは少し違うかなーと}

{いつもの幽々子どのって、どんな?}

{いつもお腹を空かせていて、感じるままに行動するんです}

{すると【advanced】の時は違うんだね?}

{そう言われれば微妙ですね……

結構食べるし、んー、あんまり違わないのかなあー}

{しっかりしたまえ、何か違いを感じていたんだろ?}

{あ、はい……佇まいとか雰囲気とかが柔らかくて素敵な感じなんです}

{うむ、確認だが、ニセの幽々子どのはヒドいヤツだったのかい?}

{いえ、そんなことはありません! 困ったことも多かったですけど、すてきな幽々子さまでした}

{ニセの幽々子どのは本物に似せようととても努力していたんだろうね}

{あ……うん、そうか、そうなんですよね……}

もちろんリスがしゃべるはずもない。

ずっとこちらを見つめているだけ。

全て妖夢の妄想一人芝居、自問自答だ。

こんな時、そばにいたら頼ってしまうだろうヒトとの空想問答。

そして結論は出た。

これまで幽々子を守ってきたのは【八雲碧】、彼女なのだ。

警護役の自分よりも遥かに深いレベルで。

主命に従い、長い間、己を殺して西行寺幽々子を守ってきたのだ。

先ほどの短いやりとりだけでも碧がとても誠実であることは疑いようがない。

「妖夢、です」

「?」

妖夢が自分を『妖夢』と言った。

「妖夢と呼んでください、あなたは、幽々子さまなんですから。

これからも幽々子さまをよろしくお願いします」

そう言って頭を下げた。

目を丸くしている碧=幽々子

「妖夢、アナタ随分と変わったのね。

このひと月の間、何があったの?」

碧は驚いてるだけだったが、紫は妖夢の対応に興味を持ったようだ。

「えっと、命蓮寺の寅丸星さんに稽古を付けていただきました。

あと、ナズーリンさんに色々なことを教わりました」

「ナズーリン? またあのネズミ?」

一瞬だけ顔をしかめた紫。

「紫さま、ご存知なんですか?」

世間の事情に疎い妖夢は素直に疑問を口にした。

「……ご存知って……ふん、まあ知らない訳ではないけどねぇ」

最近、幻想郷でちょくちょく耳にする名前。

あちこちで随分と派手に活躍しているようだ。

それに寅丸星のこともあり、紫にとっては煙たい存在だ。

ついに魂魄妖夢にも手を出したのか。

「とても頼りになる方なんです」

「あのネズミのことはもういいわ」

勢い込んでナズーリンの話をしようとしたが、紫は面倒くさそうに流した。

(あれー? 紫さまはナズーリンさんのこと、嫌いなのかなあ?)

話を遮られ、困惑してしまった。

「幽々子の意識が消えかかっているのよ」

話題を力ずくで変えた紫が重々しく言った。

「……え? それって、どういうことなんですか!?」

「驚くのも無理はないわ、でも、落ち着いて聞いてね。

碧、幽々子は今、眠っているわね?」

「はい、ぐっすりとお休みです」

「結構、それでは幽々子のことは私から話すわ」

ゆっくりと語り始めた。

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