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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(21)

先に確認したいのだけど、妖夢、アナタは幽々子と西行妖の関係を知っているの?

そう、知らないのね。

妖忌……、お爺さまから何か聞かされていないの?

分かったわ、では全てを話すことは出来ないけど良いわね?

昔、この国の風雅を愛し歌聖と呼ばれた高名な歌人が桜の木の下で果てたの。

そして彼を慕っていたモノたちが次々とその桜に集い殉じたわ。

その桜は死者の精気と情念を吸い続け、やがて妖怪となり、自ら人を死を誘うようになった。

幽々子はこの歌聖の身内だったの。

だからずっと心を傷めていたわ。

知っての通り、幽々子の生まれながらの能力は死を操るもの。

彼女が『死ねばいい』と思っただけで、そのモノはいともあっさり死んでいく。

この力を知った周囲は幽々子を恐れ、腫れ物のように扱った。

妖怪桜の化身だと。

幽々子の心は荒んでいったわ。

そんな時に私は出会ったの。

皆が言うような恐ろしいモノではなかったわ。

いつも泣きそうな顔をして、こちらの様子を伺う、脆い心の少女だった。

そして、とても繊細で優しい本当は冗談が好きな楽しい娘だったのよ。

しばらくして友達になったわ。

楽しかった、幽々子と一緒にいるととても楽しかった……

あるとき用事で半年ほど幽々子に会えなかったの。

その間に彼女は自身の命を捧げ妖怪桜を封じてしまった。

未だに後悔しているわ、あの時に幽々子の側にいなかったことを。

自分の能力を疎んだからなんて言われていたけど、絶対そんなことない!

能力との折り合いを見つけたんだから。

もう、自分を嫌いにならないって、笑ってくれたんだから。

退っ引きならない何かがあったのよ!

だって、幽々子は『次、会うときはお手玉五つを見せてあげるね』って言ってたんだもの!

約束を守るコだもの、きっと何かがあったのよ!

分かる!? この世で一番大切な親友が理由も告げずに死んでしまったのよ!

私は! 私は、それを止められなかった! 守れなかったのよ!

なにが大賢者よ! なにが大妖怪よ! なにも出来ない役立たずじゃない!

この無念、後悔、何度も何度も夢に見るのよ!

俯いたまま全身が震えている

妖夢はこんなに感情を高ぶらせた八雲紫を初めて見た。

幽々子、いや、碧がその背中にそっと手を当てた。

「ふ……う……もう大丈夫よ、ありがとう」

何度か深い呼吸をした後、紫は妖夢を見つめた。

その目は少しだけ潤んでいるように見える。

「みっともない姿を見せてしまったわね。

妖夢、忘れなさい、いいわね?」

そう言って怖い顔をして見せるが妖夢にだって分かる。

これは照れ隠しだ。

「再会した幽々子は亡霊になっていたわ。

復活の経緯には驚いたけど、会えて嬉しかった」

その時の紫の喜びは十分理解できる。

「でも幽々子は生前の記憶を一切持っていなかった。

私のこと、全く覚えていなかったの」

「え!? そ、そんな!」

思わず口を挟んでしまった妖夢。

だって、そんなのヒドい。

再会かなった親友が自分のことを全く覚えていないなんて。

「幽々子が『どなた?』って聞くのよ……ショックだったわ。

私、『初めまして』と言うしかないじゃない?」

(うーーー、そんなの私だったら耐えきれないよー!)

すっかり感情移入してしまっている純粋妖夢。

「でもね、幽々子の本来の優しい気質はそのままだった。

そしてもう一度友達になったの。

なれたの、なってくれたのよ。

……こんなに嬉しいことはなかったわー」

そう言ってちょっとだけ口元を緩めた。

(紫さまはホントに、とっても幽々子さまが好きなんだ。

なんだかちょっと羨ましいな……)

二人の絆に少し嫉妬してしまう。

「話が逸れてしまったわね。

幽々子は今も妖怪桜に少しずつ力を吸われているの。

そして年々幽々子の意識が薄れていってるわ

この力の流れが断ち難いのよ」

「で、でも、紫さまならそんな流れなんか……」

妖夢の疑問はもっともだ。

境界の大妖の力は空間移動だけではない。

自分が認識し、支配できるあらゆる境目を繋げ、断つことが出来る。

「そうね、その流れを遮断することはできるわ。

間違いなく西行妖と幽々子は繋がっているからね……」

なんだか歯切れが悪い。

「幽々子さまは妖怪桜を守ろうとしているのです」

幽々子の姿をした八雲碧が静かに告げた。

「守る? どうして、ですか? ……どうしてなの?」

妖夢は主人の姿をした主人でないモノへの口の利き方に戸惑う。

「分かりません。

私は心身全て同調しているはずなのに深層にある幽々子さまのお気持ちが見えないのです。

ですが、妖怪桜を生かすためにご自分の力を捧げることを【是】となさっています。

それだけは伝わってくるのです」

「それではいずれ幽々子さまは……」

妖夢は胃の腑を絞り上げられるような激痛を感じた。

「そんな……そんなのダメ、イヤだ、イヤだよう!」

「落ち着きなさい!

一年二年でどうにかなる訳ではないわ。

どうすべきか私も迷っているの。

本人に聞いてみてもは自分が西行妖を守っているとは思っていないのよ」

「え? それって、おかしくないですか? なんでですか?」

「生前に何かあったのだと思うけど、覚えていないみたい。

でも、深い意識に強く残っているのでしょうね、何かが。

それが分からないうちは断ち切るのは危険だわ」

「その何かは分からないんですか?」

「命を絶ったその直前あたりに立ち会いでもしなければ分からないかも。

……いくら私でも時を遡ることは出来ないわ」

「そんなあー」

「私だってどうにかしたいわよ、友達だもの。

私のことを本当に理解してくれたのは幽々子だけだもの。

一緒にいて一番楽しいのは幽々子なんだもの……」

悔しそうに俯いてしまった紫。

碧が代わって話を続ける。

「妖忌さんは小さかった貴方に役目を譲り、姿を消しました。

もしかしたら自分なりにその術(すべ)を探しに行ったのかも知れません」

西行寺幽々子を何よりも大事にしていた祖父。

妖夢は碧の予想は当たっているような気がした。

「今回は幽々子の意識がかなりハッキリしていたから時間のかかる色々な術を施して生前の記憶を調べていたの」

再び持ち直した紫が長期不在の理由を明かした。

「そうだったんですか」

「残念ながら成果は出なかったけどね……

幽々子はずっとアナタのことを気にしていたわ。

『妖夢が心配』って」

主人が置かれている状況はある程度理解できた。

だが、これは自分の手には負えそうにない。

膝の上のリスを両手でそっと包み込みむ。

「どうにかできないのでしょうか」

この言葉は眼前の境界の大妖に言ったのか、それとも……

「これからも調べて、考えて、試してみるつもりよ」

紫がしゃべっている間、リスが妖夢の指に鼻を擦り付けてきた。

もう分かっている。

こんなに世話焼きのげっ歯類は他に知らないもの。

「是非、お願いします」

この言葉も眼前の境界の大妖に言ったのか、それとも……

「あ……」

八雲碧が声をあげた。

「幽々子さまがお目覚めになります」

目を閉じる碧、暫くして目を開く。

正面にいた従者を見て少しだけ目を大きくした。

「……妖夢? そう……知ってしまったのね。

待たせてしまったわね、ごめんなさい」

そして、ふわん、と微笑んだ。

華胥の亡霊姫、西行寺幽々子だった。

「ゆ、幽々子さまぁ……」

随分と久し振りに感じる。

泣きそう。

「妖夢、お願い、碧を許してあげて」

いつも飄々としている冥界の姫が珍しく真剣に訴えてきた。

心配御無用。

幽々子の思い、そして八雲碧の思いは十分に伝わってきている。

「はい、許すも何も、碧さんには感謝の気持ちしかありませんから」

妖夢の言葉を聞いて、少しの間、ぼうっとしていた幽々子。

「……碧が泣いているの。

このコが泣くの、初めて【感じた】わ」

八雲碧=西行寺幽々子とはこれからも楽しくやっていけるはずだ。

「妖夢、お夕飯をいただいてから一緒に帰りましょうね〜」

良い感じにしんみりしていた場の空気をなぎ払ったのは食いしんぼ姫の一言。

「ゆ、幽々子さま? お食事でしたら白玉楼に戻ればすぐに召し上がれますよ?」

「紫に任せてあるから、だ〜いじょうぶよ〜」

なんだかいつものペースになってきてしまった。

緊張感のかけらもない。

「幽々子、あなたねぇ、かなーりシリアスな状況だったのに台無しよ?」

八雲紫が顔をしかめる。

「紫もお腹、減ったでしょ? 腹がへっては何とやらって言うじゃな〜い?」

どんなに深刻な状況でも何だか緩めてしまう、例えそれが自分のことであっても。

これこそが西行寺幽々子の真骨頂だ。

(うふふふ、やっぱり幽々子さまは素敵だなあ)

嬉しくなってしまった妖夢。

「今日は藍がいないから私達で夕食の支度をするのよ」

「え〜紫が〜?」

「文句言うんじゃないわよ!

てか、アナタもやるのよ、一番食べるくせに、たまには手伝いなさいな!」

「私、そういうの、向いていないのよね〜」

「じゃあ碧は? 代ってよ、料理はそこそこ出来るんだから」

「ん〜、あのコ、私が起きているときは表に出ようとしないのよ」

「……ったく、碧ったら、変なところで律儀なんだから。

それじゃ仕方ないわ。

材料は揃えてあるんだから難しくはないわよ、多分…… 幽々子、さっさと来なさい」

「え〜面倒くさ〜い」

立ち上がった紫が、ぶーたれる幽々子の手を引っ張る。

「せっかくだから、アナタも食べていきなさい」

紫が妖夢に告げる。

そして、きゃいきゃい言いながら二人して退室していった。

ポカンとしてしまった妖夢。

二人の関係が容易く理解できるやりとりだった。

一人残された妖夢。

リスは膝から降りていた。

妖夢は正座のまま手をつき、頭を下げる。

「何から何まで、本当に、ありがとうございました」

リスは少し首を傾げてから、たたっと走り去ってしまった。

見送った後、妖夢は急いで立ち上がる。

あの二人に厨房を任せるのはとても危険な気がしたから。

命蓮寺に戻ったナズーリンを寅丸星が迎えた。

「お帰りなさい、可愛いリスさん」

「ん? どうして知っているの?」

「だって、今朝、裏庭で変化の練習をしていたじゃありませんか」

「なんだ、気づいていたのか。

変化の術は久し振りだったからね。

元々それほど得意ではないから結構疲れるんだよ」

「でも、どうしてリスなんですか?」

「まぁ、野ネズミではさすがにすぐバレてしまうからね。

それに、リスは木鼠(きねずみ)とも言うんだよ。

近いから化けやすいしね」

ネズミの従者は、主人にこれまでの経緯を説明した。

ナズーリンがいつもと違う行動をすると、その身を案じてとても気を揉む寅丸。

だから報告するのだ。

「……そういうことで、西行寺幽々子の情況は予想通りだった。

利用できると思ったけど、あまりにその境遇が不憫でね」

「だから、なんとかしてあげたいんでしょ?」

「……いや、この問題は難しすぎるよ。

その現場を、その時の状況をこの目で見ないことには次の手が打てない。

時を遡れるのなら話は別だけどね」

「それでもナズはきっと何とかしてくれますものね」

ニコニコ顔の恋人。

「なんだよ、プレッシャーかけないでよ、ホント厄介なんだから。

時を遡るのはどんな魔力や妖力を行使してもほぼ不可能なんだよ。

【時渡り】の能力はありそうで実はあってはならない能力だからね。

んー、あとは、過去知能力(ポストコグニション)くらいかな」

「うふふ、もう、突破口のアタリはついているみたいですね?」

「ちぇ、先読みしないでよ……ホント難しいんだから」

「でも、ナズがリスの姿なら肩に乗せていたいですね」

「私は胸の谷間に挟まっていたいね」

「はあ? 嫌ですよ、くすぐったいもの」

「そう言わず試させてもらえないだろうか」

「い・や・で・す・よ!」

「そこをなんとか、ちょっとだけ、ね?」

「だから、イーーヤ」

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