紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 早天の霹靂(2)

「待ちなさい!」

頭上から声がかかった。

三人がそれぞれに見上げると、崖の上に人影が。

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと我を呼ぶ!」

腰まで届く蒼髪に意志の強そうな紅眼。

気持ちキツメの顔立ちだが、かなりの美人が両手を腰に堂々と胸を張っていた。

つばの広い帽子、ゆったりとしたロングドレス。

カバー率の高い服装だがスタイルの良さが水準を軽く越えていることはなんとなく分かる。

「なんだ? あの娘は」

「天人の比那名居天子さんですねー」

ナズーリンの問いに一番弟子が答えた。

「ほう、あれが地震騒ぎの天人か。

エキセントリックではあるが、見目はなかなか麗しいじゃないか」

幻想郷随一の女体評論家、ナズーリンの審美眼にかなったようだ。

「ワタシたちに用があるのかな?

まあ、あの手の輩はナズリンの担当だけどね」

てゐが首を傾げながら言う。

「てーゐ、私がいつもいつも【厄介事】対応係だと思ったら大間違いだぞ。

今回は、心当たりが全くないよ」

確かに厄介事に関わることの多いネズミの賢将だ。

「そこのネズミ! オマエが噂 のナズーリンね!?」

【比那名居天子】がビシッと指を差す。

「なんだ? いきなり失礼なヤツだな」

「ほーらやっぱりー! あーいった変なのは大抵アナタ絡みだもんね!」

「だから知らないって (くっそー)」

なんだか嬉しそうなてゐを忌々しそうに睨みつける。

「オマエたち、そこで待っていなさい! とっ あっ!」

天人が飛び上がろうと踏み込んだ崖の端がボロッと崩れた。

そのままズリズリズラーっと崖の斜面を滑り落ちてる。

後ろ頭をガッツンガッツンぶつけながら、盛大にスカートをまくり上げ、下履き丸出しで。

どしんっ、とかなりの勢いで尻餅をついて着地。

白目をむいて両手はバンザイしたまま、大胆にもM字開脚である。

気を失っているようだ。

「うわあ……えーと、大丈夫なんでしょうか?」

「天人はエラく頑丈らしいから、このくらいは平気だろ」

心配そうなはたてに軽く告げる。

しかし、モノスゴい格好だ、親が見たら泣くだろう。

「おーい、大丈夫か?」

ナズーリンは覗き込んで声をかけてみる。

「うーーん……はっ! わ、私になにをするつもり!?」

天人の娘はすぐに気がついた。

「ほーう、ホントに頑丈だな、たいしたものだ。

キミが用事があると言ってきたんだろ?

だが、まずはその格好を何とかしたまえ」

「え? ああっ!」

慌ててスカートを被せる。

「み、見たわね!?」

「見たというより、見せられたんだけどね。

そんなモノ、無理やり見せられて迷惑なことだ」

「なんですって!?

天界で有名なブランドの一品モノのランジェリーなのよ!」

「最初から争点がズレているな。

チラリズムも恥じらいもない、そんなモノにはエロスは宿らないんだよ。

よかろう! 【初級講座】から始めてやろう!

そもそもエロスとは高揚を伴う存在認識の極性点であり、蓄積された快楽様式をいかに経由して行くかという連想の回路を感覚器官全てを駆使し力強く開拓していく最も高次にして純粋な思考活動であり……」

「な、な、な!?」

「ナズリン、落ち着きなよ。

そんな、くっだらない話をしてる場合じゃないでしょ?」

「くっ、くだらないだとお!?」

魂底から湧きいずるパトスの滾りを『くだらない』と言われ鬼の形相で振り返ったネズミの賢将。

それを涼しい顔で去なすウサギの長老。

「ねえ、天人さん、このネズミさんに用があるんでしょ?」

「あ、うん、……オマエは何モノなの?」

「ワタシは鈴仙・優曇華院・イナバ。

永遠亭のウサギだよ【うどんげ】って呼んでね」

「ふーん、【うどんげ】か……聞いていたより小さいのね」

「苦労が多いからね、すり減ってちっちゃくなっちゃったの」

(このズルウサギ、また鈴仙どのの名を騙って……)

てゐのいつもの薄っぺらいウソに顔をしかめるナズーリン。

このイタズラウサギは同僚である月のウサギには何故だか容赦がない。

「まあいいわ、オマエたち、少し待っていなさい」

立ち上がってパタパタと汚れをはらい、服を整える。

何かを探すように左右を見渡している。

はたてが天人の帽子を差し出した。

「ふん」

パシッと受け取り、一言もない。

見かねたナズーリン。

「おい、今のは感謝の一言があってしかるべきだろう?

天人は礼節を知らんのか?」

天人の帽子を拾ったはたては丁寧に泥やホコリを落としてやっていた。

こういうことが自然に出来る優しい娘なのだ。

長い引き込もり生活の中で自分、そして他人との向き合い方を散々考え尽くした。

そして弱っていた心を鼓舞し、意を決して【外の世界】に飛び出し今に至る。

繊細で一生懸命、そして優しい『一番弟子』の気遣いを無碍にされて黙っているナズーリンデスクではない。

「妖怪風情が何を言っているの?」

「……ほう、それがキミのスタンスか」

不思議そうに聞いてきた天人に対し、半眼、冷声で応えるネズミ妖怪。

これは賢将が本気で怒っている時のリアクションだ。

「ナズリン、このヒト、知らないだけだよ。

教えてくれる人が周りにいなかっただけ。

喧嘩してあげる理由は無いよ」

てゐがナズーリンの袖を摘んで言った。

わざわざ『喧嘩してあげる』と表現した意味はすぐに理解できた。

プシューっと音を立てて圧力を下げた賢将の内燃機関。

(ちぇっ、この辺がコイツに敵わないところか、面白くないけど)

普段であればこの程度のことで熱くなるはずもないナズーリンだが、他ならぬはたてのことだったから冷静さを欠いてしまった。

そこをタイミング良く抑えてくれたのは悪友の一言だった。

当の天人は因幡てゐが小声で告げた内容を掴みかねているようだが。

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.