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ナズーリン! 早天の霹靂(4)

「おねーさーん、アナタのお名前は?」

はたての飛跡をぽけーっと見ていた天人にてゐがフレンドリーに話しかけた。

一見は幼女風、実は年寄り腹黒妖怪のコンビ、表面的な愛想の良さはウサギ妖が相方より遙かに勝っている。

「私は比那名居天子(ひななゐてんし)よ」

「ひなななゐてんし?」

「な、が多いわよ!」

「難しいのね、なんて呼んだらいいの?」

「そうね、普通なら【天子さま】だけど特別に【天子さん】で良いわ」

「じゃ、てんてん」

「なんでそうなるのよ! そんなのダメに決まっているでしょ!」

「んー、天子さんはなにを探して欲しいの?」

「てーゐ! 勝手に話を進めるなよ」

「いいじゃん、聞くだけなら」

天子を軽くからかいながら会話の主導権を掴んでいく詐欺ウサギ。

「さっきも言ったけど、それを当ててみろと言っているのよ」

天子が再びナズーリンを指差す。

「その指、不愉快だな……尊大で高圧的な態度も気に入らないね」

「そう、まるで自分を見ているようでイヤなんだってさー」

「てーゐ……」

確かに初対面で偉そうな物言いをすることの多い毘沙門天の遣い。

相方からスパッと指摘され、内心は複雑だ。

隣に立っている因幡てゐを睨みつけるが、当人は顎をあげ、半眼で唇を尖らせ、ちょみちょみしている。

まるで口づけをねだっているかのようだ。

『そのフザケた顔やめてくれよ!』

盛大にからかわれていることを理解したナズーリンは再び気を落ちつける。

「ふん、探し物か、全然分からんね」

「少しは考えなさいよ!」

「いーや、お手上げだ、降参するよ」

「え……そんな」

相手が全く絡んでこないので、いきなり手詰まりになってしまった天人娘。

「ナズリン、ちょっとは構ってあげなよー」

てゐが無責任なフォローを入れる。

「じゃあ、命蓮寺に行って私のご主人様である寅丸星に話を通したまえ。

私はご主人様の命令がなければ動かないよ」

「そうだっけ? いつも気分とノリで請け負ってるみたいだけど」

「てーゐ! ちょっと黙っていろよ!」

「そうね、ヒントをあげるわ。

あらゆるものを切り裂く無双の力を秘めた私の半身よ」

『厨二病か? ヒトの話を聞いちゃいないし、やっぱり変だぞ、この娘』

ナズーリンがシュシュッとつぶやく。

『箱入りで、ワガママ放題に育てられた思い込みの強い娘でしょ?

珍しくはないよ』

このウサギ、識者ではないが人妖の心に関することには聡い。

「てゐさまー! こんにちわー!」

元女学生のお騒がせ娘、守矢神社の風祝、東風谷早苗が姫海棠はたてを連れて到着した。

「はーい、早苗ちゃーん、元気ー?」

「てゐさまもお元気そうでなによりです!

神奈子様も会いたがっているんですよー!

あ! 今度、お餅のつき方を教わりに上がります」

可愛らしい娘が年相応の素直な元気さで明るく対応する。

「ぃやあやあ、早苗どの久しぶり。

お山の様子はどうだね? お二柱にもお変わりはないか?」

「……いたんですか……こんにちわと言っておきましょう」

いや、居たも何も、てゐの隣に立っているんだし。

ヒトの表情はこれほど素早く変化するものなのか。

むすっとしている、題名をつけたら【超・不愉快】か。

場の不穏な空気を読んだはたてがナズーリンに目線だけを送る。

不審げな顔を見れば言いたいことは分かる。

(なんだか随分対応が違うんですね、どうしたんですか?)

(まぁ、ちょっといろいろあってね、また今度話すよ)

ナズーリンも表情だけで答える。

早苗は先の【特別補習講座】で澱んでいた胸のうちを因幡てゐに優しく濯いでもらってから心酔してしまっている。

彼女にとってこの小さな妖怪ウサギは今では二柱に次ぐ尊崇の対象である。

逆にフザケ半分で悪役を演じてしまったナズーリンは徹底的に嫌われているのだった。

「比那名居どの、暫し時間をいただくよ。

その探し物とやらについての作戦タイムが欲しいんだ」

「作戦タイム? なにそれ?」

「天人さまが細かいこと気にしてはいけないな。

はたて君、少し相手をしてやっていてくれ」

「は? 私ですか?」

ムチャ振りもいいところだ。

「ええーと、私、新聞記者の姫海棠はたてです。

お忙しいところ恐縮ですが、最近、幻想郷の話題を独り占めにしている比那名居天子さんにインタビューをさせてください!」

「話題を独り占め? そうなの? ふーん」

「それはもう! どこへ行っても美少女天人の話題で持ちきりです!」

「し、仕方ないわね、少しだけよ」

「ありがとうございます! まずはその洗練されたファッションからうかがいます!」

鼻をピクつかせて口元が緩んでいる天子。

はたてはいきなりのことにもかかわらず、営業モードをトップギアに入れた。

こういった切り替えもネズミのデスクからガッチリ仕込まれている。

「あちらははたて君に任せておいて大丈夫だろう」

「ほーんと、勿体無い」

早苗の手を引いて少し離れた場所へ移動したてゐが繰り返して言った。

「あのー、結局、私、何のために呼ばれたんですか?」

状況がつかめないでいるお山の風祝はどちらにともなく問う。

「あのトンチンカン娘の意図を正しく把握したいのだが、話が通じない」

「で、なぜ私が呼ばれるんですか? 意味が分からないんですけど。

私の力が必要だって言うから急いで駆けつけたのに」

「世の中には上には上がいると教えてやらねばならないからね」

「だからなんで私なんですか!?」

「だって、私が知りうる限り、トンチンカンの最高位はキミだもの」

「なっ……」

普段は比較的温厚な山巫女の顔が驚愕と憎悪に歪む。

スゴい顔だ、別嬪さんが台無しだ。

「ナズリン! 早苗ちゃんをバカにしたら許さないよ!」

てゐがナズーリンを軽く突き飛ばした。

唐突に敬愛するウサギ妖怪が自分を庇ってくれたことで早苗の感情の矛先が逸れる。

「……てゐさま」

どこまで本気でどこまでが演技か分からないが、てゐが怖い顔でナズーリンを睨む。

そしていつもの小声。

『ナズリン、アナタ、このままじゃホンッキで嫌われちゃうよ?』

『今はそれで構わないさ、キミがフォローしてくれるんだから』

『何を仕組んでいるか知らないけど、手遅れになっても助けないからね』

深慮遠謀の賢将だが、希に凡ゴロをトンネルすることを誰よりも知っている長老ウサギ。

真面目で一生懸命、そして秀でているモノをからかいたがるのはこのネズミの悪癖の一つだ。

因幡てゐ自身もその傾向があるので気持ちは理解はできる。

ナズーリンはこれまでにも雲居一輪、射命丸文、魂魄妖夢などにちょっかいをかけてきているようだ。

それでも最後はなんだかんだでそれなりに理解に至り、うまくやっているのだが、東風谷早苗だけは既に後逸しているように思える。

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