紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 早天の霹靂(8)

「うん、おいっしーー!」

結局、命蓮寺の広間でそうめんを食べることにした早と天。

ズルズルモグモグ、早苗は予想通りの美味しさに大満足。

「ふん、悪くはないわね」

同じように威勢良く食べているくせに素直ではない天人。

「天子さん! ご馳走になっているのにそんな言い方無いでしょうに!」

「なるほど、そうめんはつゆの旨みを味わうものなのね。

……サナエはこの【おいしさ】を話せる?」

一転して真面目な顔で問いかけた。

「え、話すって? おいしいものはおいしい、で良いじゃないですか」

「薬味のネギや紫蘇、その他【野菜】全ての味が濃くて活きが良い。

きっと名のある産地のものだわ。(by雲居一輪菜園)

生姜が控えめなのも好みね、生姜汁だけを使っているから舌触りの悪い繊維が残っていないし。

全体的に上品にまとめ上げられているじゃない。

誰の調味なの? 機会があればその者に鰹節や昆布を存分に使わせてみたいわね。

……舌の両脇を軽く引っ張るようなホンの少しの酸味は何かしら? これが分からないな」

「柚の皮を完全に干してから磨り潰したものだよ。

極少量しか入れていないはずなのによく分かったね」

様子を伺っていたナズーリンが答えた。

「ふへ……」

早苗はビックリして箸が止まってしまう。

「干した柚か、なるほどね、敢えて風味を飛ばして酸味で下味を支えたのね。

魚介出汁に頼れないから目先を変えたわけか、ふーん。

でも、もう一つ何か欲しいな……

味はこれ以上いじらない方が良いのかな、舌ではなく鼻腔で味わえる香味が……

あ、そうか! ホントならここに【竹の香り】がほんのり移ったそうめんが来るんだ。

それなら話は分かる! うーん、やるじゃない!」

少し興奮している天人娘。

「シェフを! シェフを呼んでちょうだい!」

「まぁ、落ち着いてくれたまえ、ここは怪しげなレストランではないんだから。

しかし、天人さまはとても舌が肥えておいでだな、感心したよ」

ネズミの小妖に言われ、我に返る天子。

「んん、こほん、今のはナシでいいわ。

……実のところ天界には食材が少ないのよね。

たまに地上に降りて美味しいものを食べ歩くのが私の道楽かしら。

まー、だから不良扱いされちゃうんだけどさ」

そう言って再びズルズルとそうめんを手繰った。

(天人は総じて味オンチだと思っていたが、認識を改めないとならないかな。

これだけ繊細に味を感じ取れ、それを表現できるのだ。

本当に美味しいものを丁寧に大事に味わって食べてきたのだろう。

比那名居天子、覚えておく必要があるな)

ナズーリンは自分以外でただ一人、寅丸星渾身の調味を精確に受け止めた天人娘を心に刻んだ。

「ふうー、ごちそうさまでしたー」

多人数分盛ってあるそうめんは【これでお終い】のタイミングが難しい。

あと一口、もう一口と結構食べられてしまうから。

大抵のモノは自分の限界を少なからず超えてしまう。

「結構いただいちゃいましたねー、お腹いっぱいです」

早苗が満足そうに腹をさすっている。

「そうだね、二人で八人前だからね。

健康な娘さんがおいしそうにモリモリ食べている様は見ていて気持ちが良かったよ」

ナズーリンが器を下げながらにこやかに告げる。

「……え? は、八人前?」

目を剥いた早苗の横で姫海棠はたてがせっせとメモを取っている。

「あの、はたてさん? なにをしてるんですか?」

「お二人の豪快な食べっぷりを記事にしようかと」

「ちょ、ちょっとまってください!」

プリティ&ラブリー路線で売り出し中の風祝に大食い属性は全く必要がない。

「だ、ダメです!

ワタシがそうめんを三人前も平らげたなんて、そんな記事、マズいんです!」

「……サナエ? 誰がどう見てもアンタの方が食べてたじゃない。

アンタ、つゆだっておかわりしたし、私、多く見ても三人前よ?

8ひく3はいくつ? それがサナエが食べた分でしょ?」

天子が強い口調で詰め寄る。

「う、うそです、そんなはずありません……」

「三人前までなら乙女的に『いやっだー! うっそー!』の範囲だけど、五人前となると洒落にならないわ。

正直言って笑えないわよ」

天人が畳み掛ける。

「そんな……」

「たくさん食べられるのは健康な証拠。

早苗ちゃん、気にしない、気にしない」

てゐがフォローする。

「てゐさま……」

基本、イタズラウサギが優しく包むのはお山の風祝だけだ。

「それでも五人前はないわよ」

「ぐぎぎぎっ!」

「サナエ、アンタ、ちょっと変だけど面白い娘ね、ふふふ」

「ふぐぬがぐが!」

いわゆる【オマエだけには言われたくない】台詞だった。

「天子どの、お迎えが来たようだよ」

寺仕えの小妖に呼ばれていたナズーリンが戻ってきて告げた。

「衣玖かしら?」

「そうだ、永江衣玖(ながえいく)と名乗っておられたね」

広間に現れたのは天子や早苗より少し背が高いロングドレスの女性。

際だった美人ではないが立ち居振る舞いが落ち着いた大人っぽい雰囲気。

「総領娘様、お迎えにあがりました」

「よくここにいると分かったわね」

「貴方の気を追っておりましたから」

種族はリュウグウノツカイ【空気を読む程度の能力】の持ち主。

【気】のとらえかたは色々あるのだろう。

「貴方は方向感覚が独特なのですから一人で遠出してはいけませんよ」

「用事があったからんだから仕方ないじゃないの」

「緋想の剣、私の部屋に忘れていったでしょう?」

「あ……そうだったんだ。

もー、あっちこっち探して大変だったんだよ?

そこのネズミが探し物が得意だと聞いたからわざわざ【下】に降りて来たんだから」

探し物の依頼はナシになりそうだ。

「まあいいわ、それで持ってきてくれたの?」

「剣はご当主様に返しておきました」

「はあああーー!? お父様に!?

私の断りもなく、何勝手なことをしているのよ!」

「何度も申し上げますけど私は貴方の従者ではございませんよ?

どちらかと言えばお目付役です。

お父様、ご当主様にご恩があるから仕方なく貴方の世話をしているのです」

「仕方なくって……」

強気な天子もさすがに鼻白む。

『このお目付役もなかなかの性格だな』

シュルっとナズーリン。

『ちょうどいい塩梅の組み合わせなんじゃない?』

「サナエ、今度、アンタの神社に遊びに行ってあげるわね」

「え?……」

それこそ迷惑千万、早苗の顔がどよんと曇った。

不吉な予言を残し、天人と連れは行ってしまった。

「いやはや、野分のような娘だったな。

あとは早苗どのに任すとしよう」

「どーーーしてあんな変なのを押しつけるんですか!

迷惑ですよ!」

「いいコンビだったじゃないか」

「アナタの眼は洞穴ですか!?」

「節穴だろ?」

「そ、そうとも言います。

とにかくもう、ゴメンですからね!」

「しかし思っていたよりも知性がありそうだし、繊細なところもあるようだよ?

興味深いだろ?」

「だったらナズーリンさんが相手してくださいよ!」

「仮にも巫女なんだからどんな【ご縁】も大切にしなくちゃいけないよ」

「ご縁にも良縁と悪縁があります。

お寺だって縁切寺があるじゃないですか!」

「やれやれ、理屈っぽい娘だなあー」

「あ、アナタがそれを言うんですか!?」

ネズミの賢将相手にこれだけポンポンビシバシ、スパイクを打つモノはそうはいない。

守矢神社のウイングスパイカーはプリプリしながら帰っていった。

プンスカしながらも帰り際に『そうめんご馳走様でした、とても美味しかったです』と丁寧に頭を下げた。

色々ぶっ飛んでいるが、律儀で礼儀正しい娘だ。

「はてさて、この後どうなるか、面白そうだ」

「ナズリン、アナタの仕掛けは最初が唐突なんだよ。

だからいっつも回り道になるんだよ、分かってる?」

ほくそ笑むネズミにウサギが苦言を呈する。

「どういうことですか?」

ツインテ天狗がたずねる。

「この変態ネズミはあの二人を友達……コンビにしようと考えているの」

「コンビですか?」

「友達のいない二人の間を取り持ってやったんだよ。

さしずめ私はキューピッドだね」

「こんな邪悪で不気味なキューピッド、願い下げだわね」

「不気味は言いすぎだろ?」

「皆さん、いらっしゃいませ」

広間に寅丸星がやって来た。

片付けが終了したようだ。

「てゐさん、たくさんの竹をご用意くださってありがとうございました。

おかげさまで大盛況でした」

「寅丸さーん、おたくの従者がまた変なこと企んでいるよー」

「それって、ナズーリンが通常営業しているということですか?」

ぷっっ ×2

ワザとらしいチクリに少しおどけてみせる星。

この返しはてゐとはたてにウケたようだ。

「ご主人様……」

一方のナズーリンは顎をそらし、下唇を噛んで不満を表現している。

「あらあら変なかおー、うふふふー。

皆さん、ナズーリンが企むことに間違いはございませんからご安心ください」

「ねえ、それ本心から言ってる?」

てゐが意地悪く聞く。

「……えーと、多分、おーよそ、そこそこ……ですかね?」

再びおどけてみせる。

「ご主人様! そこは力強く肯定するところじゃないのか!?」

「あはははははー」

陽気で優しい毘沙門天の代理が楽しそうに笑う様は周囲を柔らかく明るく照らす。

はたてはもちろん、てゐでさえしばし見とれるほどだった。

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