紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 早天の霹靂(9)

「サナエー、遊びに来てあげたわよ」

翌日、昼過ぎに比那名居天子が守矢神社にやって来た。

ホントに来やがった、昨日の今日で。

「昨日は食べ過ぎて寝苦しかったわ。

さすがにサナエもキツかったでしょ?

朝もお茶一杯で十分だったしねー」

「で、ですよねー」

夕べは普通に晩御飯をカポカポ食べてぐっすり眠ったとは言えない。

今朝は目玉焼きを乗せたソース焼きそばに、ふかしたジャガイモ2個なんて言えない。

大食い属性は死んでも回避したい。

「早苗、お客さん?」

「あ、諏訪子さま」

二人の前に現れたのは白金の髪の少女。

いつもの目玉付き市女笠は被っていない、あれは外出用だ。

諏訪子は天人をじっと見つめている。

天子は今まで経験したことのない圧迫感にじっとり脂汗が出てきた。

こちらを見ているはずだが、焦点はもっと先にあるように思える。

自分のすべてを見透かすような冷めた視線。

「名は?」

「ひ、比那名居、て、天子」

いつのまにか喉が干からびていて、咄嗟に声がでなかった。

「私は洩矢諏訪子。

早苗と仲良くしてやっておくれな」

「……はい」

傍若無人な我が儘娘が素直に返事をした。

「ぷはああーー」

諏訪子が社殿の中に消えた後、溜めていた息を盛大に吐き出した。

「い、今の誰なの?」

「洩矢諏訪子さまですよ、名乗られたじゃありませんか」

「いえ、名前じゃなくてさ」

「あーー」

早苗はなんとなく理解した。

ほとんど神社から出ることはないから存在自体が目立たない諏訪子。

遠目からはトリッキーな装いの少女にすぎない。

だが、土着神の頂点である彼女に至近で接したモノはその圧倒的な存在感に打ちのめされる。

もちろん例外はいるが。

「説明すると長くなってしまいますが、簡単に言うと【神様】ですよ」

「簡単に言いすぎでしょ? ただの神様じゃないわよ」

諏訪子のオーラを感じ取れる感性はあるらしい。

「機会があれば教えてあげますよ、うふふ」

天子が【私の神様】に恐れ入っている様子に早苗はちょっと気分が良くなった。

「今日はガールズトークを展開するわよ」

「いきなりなんなんですか?」

神社の縁側に腰掛けた天人娘が切り出した。

「まずは恋バナね」

「お話の流れが全くつかめないんですけど」

「サナエ、アンタ、恋人いる?」

早苗は正直に首を振る。

「いないの? ださっ」

「そう言うアナタはどうなんですか」

「私くらい高貴な生まれだと、恋愛も制限されてしまうのよ」

「つまり、いないんですよね?」

「好きな人がいるなら相談に乗ってあげても良いわよ。

私、天界では【恋愛大将軍】とか【恋愛オフサイド】と呼ばれているんだから。

そしてところによっては【恋愛ゲルゲ】の異名も持っているのよ」

そんなトンチキな異名をつけられているヤツに真面目な恋愛相談ができるわけがない。

「古道具屋の店主がカッコいいと聞いているんだけど?」

「んー、私が聞いたところでは絶食系男子で正体は妖怪【旗折り小僧】らしいですよ」

「なにそれ? でもボーイフレンドの一人二人はいてもいいわね。

あの衣玖にさえいるんだから」

「衣玖さんのボーイフレンドですか」

昨日見たリュウグウノツカイはとても大人っぽかった。

どんなBFなんだろうか、早苗も興味津々。

「空散歩の時に知り合った【オジサマ】なんだって。

口数は少ないけど、誠実で優しいジェントルマンだって言っていたわ」

「へえー、なんだかとても素敵ですね」

大人な女性とジェントルマンがお洒落に交遊するイメージに食いついてしまう早苗。

「サナエの好みのタイプってどんな感じなの?」

グイグイくる天子だが、早苗もなんだかんだで答えてしまう。

「アナタに本物のイイオトコを教えてあげましょうか。

私の好みのタイプは……」

結構、盛り上がっている。

この後、二人して人里の甘味処におもむき、餡蜜やトコロ天を食べながらわいわいおしゃべりをした。

「それじゃ帰るわ、またね」

【ガールズトーク】を堪能した天子が帰り際、早苗をちょっと見つめた。

いつも虚勢を張って険しい顔を作っているが、この時はふわっと緩んでいた。

真紅の瞳が綺麗だった、とても綺麗だった。

(いやだ、このヒト、美人なんだ、全然納得いかないけど……)

早苗は理解不能のドキドキを抑えようと苦労していた。

「サナエってブスだけど付き合い良いから好感が持てるわ」

(……いま、なんて言ったの? ブス? ぶす〜ぅ〜ぅ?)

〜ぅ、のところが上下する。

生まれて初めて言われた。

幻想郷に来てからは周囲のレベルが滅茶苦茶高いので気後れしてしまっているが、ずーっと可愛い早苗ちゃんと言われてきたのだ。

※何度も注釈を入れるが、この二人、どこに出しても決してブスとは言われない別嬪さんだ。

自分にフリッツ・フォン・エリック並の握力があれば顔面を鷲掴みにして握りつぶしてやりたいと思う早苗だった。

「女が二人でいると片方は引き立て役とか言うじゃない?

でも、私はそんなこと気にしてないから。

サナエも気にしなくて良いのよ」

爽やかで素敵な笑顔で言いやがった。

つま先で尻の穴を思いっ切り蹴り上げてやりたい。

翌日も神社にやってきた天人。

『さーなーえーちゃーん あっそびましょー』

実際にそう言った訳ではないがノリはこんな感じだった。

早苗はウンザリ、神社の仕事が終わるまでダメだと告げると我が儘天人は意外にもおとなしく待っていた。

「サナエの行きつけのお店に連れて行ってよ」

そう言われても幻想郷では珍しく下戸な早苗は夕方から寄れる店など心当たりが無い。

ちょっと考えた後、以前世話になった夜雀の屋台を思いついた。

「えー? 屋台? 妖怪がやってるの?」

言うと思った。

「大事な恩人のお店なんです、女将さんに失礼したら絶対許さなえから。

約束してください! そうしないと連れて行きませんよ!」

この天人は妖怪をアンダールッキングしているので釘を刺しておかねばならない。

「ふーん、分かったわよ」

「昨日、アンタが好みのタイプだって言っていた【バラン】ってロボットでしょ?」

「そう言いましたよ【バビ●二世】に出てくる戦闘ロボットだって」

「調べたんだからね、全裸で鉄球振り回す変態ロボだったわ!」

「変態って失礼ですねー、デザインですよ」

「なんであんなのがタイプなのよ、アンタ、おかしいんじゃない?」

夜雀ミスティア・ローレライの屋台で天子が早苗に文句を言っている。

屋台の席に着いたはじめこそ訝しげだった天子だが、八目鰻の串と雀酒にはウムウムと頷いていた。

料理に文句はないようだった。

「無口で乱暴者だけど、実直で頼りになりそうですし、最後まであきらめない不屈の根性が素敵。

それに髪型も結構オシャレですし」

「そんなのが良いなら【ポセイドン】の方がよっぽど強くて頼りになりそうよ?」

「分かってませんねー【ポセイドン】と手をつないで町を歩けますか?

カフェーに入れますか? 大きすぎて彼氏には成り得ませんよ」

「……【バラン】も相当デカいみたいだけど?」

「3.5メートルです、手をつないで歩けるギリギリです。

背の高い彼氏ってそれだけでなんだか誇らしいですよねー」

「絶対間違ってる。

そもそも、アンタ【バラン】と茶店でスイーツ食べるっての?」

ミスティアにとっては異次元の会話だ。

全く入っていけない。

久しぶりに会った東風谷早苗から気の強そうな天人の娘を紹介された。

その時、早苗が何故か申し訳なさそうにしていたのが印象に残った。

「正直に言いなさいよ、ホントに好きなのは誰?」

「BK-1です」

「それ、誰?」

「知りませんか? 通称ブライキングボスです。

野心家ですが実は思いやりがあって一途なヒトです。

不幸な生まれ故かいつも愛に飢えていました。

私、守矢の巫女でなければ彼の野望を助けてあげたかった」

「……サナエ、アンタ相当ヤバイわよ?

早いうちにちゃんとしたカウンセリングを受けたほうが良いよ」

音がするくらい【カチンッ】ときた。

つい最近、同じことを言われアタマにきたばかりだったから。

奢ってあげると言い張る天子を制して何とか割り勘に持ち込んだ早苗。

借りは作りたくなかった。

ミスティア・ローレライは相当オマケしてくれたようだ。

勘定を済ませた後、立ち上がろうとしたが天子が考え込んでいるようだった。

もじもじしているようにも見える、らしくない態度だ。

「ねえ、サナエ」

「はい?」

「アンタ、友達いる? どうせいないんでしょ?」

何故決めつけるのか。

元の世界で泣く泣く別れてきた親友のことを思いだし、頭に血が昇った。

「いますよ」

「へー、じゃあその友達は今どうしているのよ」

意外そうな天子。

「そ……それは」

八坂神奈子について幻想郷に来るために大切な友達との縁を切らなければならなかった。

神の力を持って親友の記憶にある東風谷早苗を書き換えた。

親友の心に居たはずの自分、東風谷早苗が消えて無くなってしまったのだ。

誰にも言えなかった心の苦しみを因幡てゐだけが受け止めてくれた。

そして、やっと、やっと立ち直れたのに。

「やっぱりいないんじゃない」

いないのではない、切ったのだ、捨てたのだ。

もっとも触れて欲しくないところへ土足で踏み込まれた。

(やめて……もう、やめてよ……)

怒りとともにこみ上げてくる拒絶。

「あのさ、私、友達になってあげようか?」

最悪のタイミングで最悪の提案。

「……アナタなんか、アナタなんか! アナタなんかがー!!

私の友達になれるわけないじゃない!!」

爆発した。

これまでも度々早苗は天子に怒ってきた。

だが、今の怒りと拒絶は異質だった。

風祝は去ってしまった。

呆然としている天人が残された。

「なによ、サナエのバカ……バーカァ……」

声が震えている。

オロオロしているミスティア。

客同士の酒席での喧嘩など珍しくもないのだが、この度は何か良くない喧嘩のように思えた。

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