紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 早天の霹靂(10)

守矢神社を訪れているナズーリン。

いつものように洩矢諏訪子と碁を打つためだ。

泰然自若な土着神と、のんびりペチリ、パチリ。

ぽつりぽつりと他愛のないことや近況を話したりもする。

諏訪子によると早苗に元気がないようだと。

この二週間、比那名居天子を見かけないと。

(なにがあった?)

理由はすぐに分かった。

翌日、命蓮寺へ稲荷寿司の仕入れに来たミスティアがナズーリンに顛末を告げたのだ。

(ありゃ、いきなりそうなったのか)

そのことをてゐに報告すると、ザ・軽蔑の表情で言われた。

「言わんこっちゃない、どうすんのよ」

早苗の【友達】に関しての心傷は二人ともよく知るところであった。

ナズーリンなりにどうにかしてやりたいと思い、直感に従って引き合わせたのだ。

「悪くない組み合わせだと思うんだがなー。

とりあえず比那名居天子の様子を確認したいな」

「わざわざ天界に行くつもり?」

「んー、まずはお目付役に聞いてみるか」

「あのリュウグウノツカイのヒト?

どうやって探すのよ、空飛んでるんじゃないの?」

「大丈夫さ。

この辺りの高度、高々度の空域で雲山が知らないことはないはずだから」

「おーい、一輪」

「なに?」

寺務所にお寺の守護役をたずねる。

「怖い顔するなよ、折角の美人が台無しだぞ?」

「つまらないこと言ってんじゃないよ、尻尾を引っこ抜くよ。

さっさと用件を言いな」

決して愛想が良いとは言えない雲居一輪だが、特にナズーリンに対してはキツい。

根本的にウマが合わないこの二人にとってはいつものやりとりだ。

「雲山を呼んでくれないかな、聞きたいことがあるんだよ」

一輪は片方の眉を釣り上げたままナズーリンを見つめている。

ナズーリンも一輪を見つめる。

「……真面目な話なのかい?」

「うん」

「分かった、ちょっと待ってな」

一輪はナズーリンに対して信用・信頼など考えたくもない。

だが、このクソ生意気なネズミは寅丸星のためならばあっさりと自分を捨て、身も心も犠牲にすることを厭わないと知っている。

それは自分の聖白蓮に対する覚悟と心構えに通じている。

腹立たしいことだが。

そして、普段は何かにつけ癇に触る相性最悪の変態ネズミだが、コイツが真剣になるのは他人を助けるためだとも知っている。

だからその時だけは力を貸してやると決めている雲居一輪姉さんだった。

「『散歩友達だ』と雲山は言っている」

雲山によると永江衣玖とは知り合いらしい。

それなら話は早い。

しかし。

「雲山も隅に置けないな、やるもんだねー」

大きな雲がグオグオとくねった。

「『清い交際だ、やましいことなど何もない』と雲山は言っているよ」

「もちろんそうだろう、うんうん」

ナズーリンがクヒヒっと笑った。

雲山がモクモクモリモリ大きくなっていく。

「この!……」

「ナズリン! よしなよ! それどころじゃないんだから!」

文句を言おうとした一輪を制し、因幡てゐがナズーリンの尻をぼかんと蹴飛ばした。

「ふざけるのは後でしょ?」

「む、そうか、もっともだね」

普段は自分よりおふざけなウサギ妖怪に窘められたネズミ妖怪。

てゐの行動により平静に戻った一輪&雲山。

「『用事があるなら連れていってやるが』と言っているけど?」

「そうそう、それが大事なところだ、雲山、頼むよー」

「ったく……」×2 (一輪&てゐ)

雲山にナズーリンとてゐが乗っている。

高々度飛行となるとかなりの妖力を消耗するから便乗させてもらうことにした。

一輪は同行していない。

『使役する立場だけど、雲山のプライベートは尊重する。

どんな女と付き合おうと自由だよ』

そう言ったスタンスらしい。

雲山はグオグオガオガオ言っていたがよく分からなかった。

「しかし、キミが一緒に来るとはね」

「早苗ちゃんのことだからね。

それにこれに関してはアナタに任せっきりは危ないもの」

ごうんごうんと空を行く空妖雲山に埋まりながらやり取りする腹黒幼女のプリポナ二人。

「雲のオジサン、左に向かって!

風音が少し引っ掛かっているの!

何か細長いものが風の流れに逆らって飛んでいるわ」

てゐが雲山に言う。

五感、特に聴覚に関しては桁外れの感度を誇るウサギの長老。

永江衣玖に遭遇した。

「あら、オジサマ、こんにちは」

以前会った時とは大違いの優しげな表情。

グオグオ。

「え? あー、そのお二人とは面識がございますよ」

どうやら衣玖は雲山と楽に会話ができるらしい。

「幽閉されました、でも、それなりに広い部屋ですから蟄居ですかね?」

比那名居天子の様子を聞いたところ、ビックリするような事実を知らされた。

「なにがあったんだね?」

ナズーリン、てゐ、そして永江衣玖がゆっくり飛んでいる雲山の上で話す。

「総領娘様は緋想の剣を再び持ち出そうとして見つかってしまったのです。

今回ばかりはご当主様も許してはくれず、閉じ込められました。

恐らく数年は出てこれないかと」

「なんでまたそんなことを」

「総領娘様は……面倒ですから【ソー娘】(そーむす)と略しますね」

「キミも大概だな」

「ソー娘は東風谷早苗さんとお友達になりたかったようです」

これまでのことを勘案すればそうなのだろうと推測できるが。

「ソー娘は昔から身の回りの出来事を私に話すのです。

……ほかに話を聞いてくれるモノがいないからですけど。

閉じこめられる前まで早苗さんの話ばかりでしたね。

……情けなくなるほど勝手気ままな振る舞いで早苗さんが気の毒です。

自分が友達になってあげなきゃと張り切っていました。

……思い上がりも甚だしいんですけど。

お察しの通り、ソー娘に友達はいないのです。

……あのような性質ですので大抵のモノは嫌気がさしますね」

ナズーリンとてゐ、口の悪い二人が思わず顔を見合わせるほどの酷評だ。

「ソー娘はおバカさんですけど、頭は良いのです、賢いのです。

周囲をよく見ているし、立ち回りも上手です。

物知りですし、それなりの感性もあります。

ですが本質は間違いなくおバカさんです。

ここ一番で他人の気持ちを斟酌せずに大ポカをやらかすのです」

「ワタシ、そういうネズミ知っているよー」

今回は何も言い返せないナズーリン。

「早苗さんをよほど気に入ったのでしょう。

あれほど嬉しそうなソー娘は初めて見ました。

友達になろうの申し出を断られて大変なショックを受けていました。

ソー娘はああ見えてとても臆病なのです。

友達のいない自分の性状を客観的には理解しているのです。

勇気を振り絞って言ったのだと思います。

ですが玉砕しました。

きっと、最悪のタイミングで最悪の言い方をしてしまったのでしょう。

それ自体はいつものことですが、落ち込みようが尋常ではありませんでした」

「永江どの」

淡々と淀みなくビターな言葉を紡いでいるリュウグウノツカイを遮る。

「衣玖と呼んでください」

「では衣玖どの。

話の途中で恐縮だが、どういった経緯で緋想の剣とやらが絡んでくるの?」

「ナズリン、せっかちだねー」

「あ、うん……そうだね。

すまない、話の腰を折ってしまったな」

「いえ、こちらこそクドクドとすみません。

どうも私は言葉が足りないようなのです。

話す内容も唐突だと言われておりますので最近は意識して細かく話をするようにしているのですが加減が難しいですね」

確かに永江衣玖の地震予告は簡素すぎて却って混乱を呼んだことがあった。

「では、そのあたりをお答えします。

ソー娘は早苗さんが友達になってくれないのは自分が大したことないからだと思い込んだようです。

自分が弱くて尊敬に値しないからだと。

だから早苗さんに認められないのだと。

ならば力の源となる緋想の剣と共にあれば認められるはずだと。

……悲しくなるほど短絡的です。

普段はここまでバカではないのですが、よほどショックが強かったようです。

後先考えずに行動してしまいました」

「どうしたものかな」

「どうしようもないじゃない」

ナズーリンは胸の前で腕を組み、てゐは頭の後ろで腕を組んでいる。

この件についての二人の取り組み方が態度にも出ている。

「衣玖どのはどうしたい?」

賢将がお目付役に話を振る。

小妖二人を見ていた永江衣玖だが、ややあってから再び語り始めた。

「ほとんどすべてが自業自得なのですから、いい薬だと思っています」

「厳しいねー、でも、ホントは?」

てゐが何気なく聞いた。

「何とか助けたいです」

全く表情を変えないで告げた衣玖。

『ねえ、この女が分からなくなってきたよ?』

『これだけ遠慮なく言えるのはそんだけよく見てるって事だし、仲が良いってことでしょ』

シュルシュル会話の内容に反応したかは分からないが空飛ぶレアアイテムの眉がピクッと上がった。

「お二人の話、聞こえておりますよ」

「ありゃ」

「正確には【聞こえる】のではなく【読める】のですけどね。

能力のおかげでしょうか」

「それは失礼してしまったね」

「お気になさらずとも結構です。

お二人には正直に申し上げましょう。

私、少し嬉しいのです」

「閉じこめられたことがかい?」

「これまでもヒトの目を引こうとあのバカ娘がトンでもないことをしでかす事はたびたびありました。

ですが、今回は早苗さんだけを求めてやらかしたのです。

ソー娘がそれほど思いを込められる相手に出会えたことが嬉しいのです。

……早苗さんにとっては迷惑かもしれませんが」

衣玖が続ける。

「出来の悪い妹のようなものですが、あのコに幸せになって欲しいのです。

バカな子ほど可愛い、との理屈から言えば、あれほどの激烈バカならば激烈可愛い、となりますよね」

「その意見には肯首しかねるけど」

「でも、自分の命の次に大切な存在ですから。

おや?……信じられませんか?」

「いや……」

散々な物言いをしてきただけに真意が掴みづらい。

「助けるにしても、勝手に逃がしたらお尋ね者になりかねない。

閉じこめたのは父親、ご当主様だと言ったよね?」

「はい」

「ならばそこを突き崩すしかないな。

ご当主様のこと、もう少し詳しく教えてくれないか?」

ナズーリンは一丁噛みするようだ。

「大変立派な方でございます、私も尊敬しております。

ですが、親バカの完全保存見本なのです。

立場上、娘には厳格に接しているつもりのようですが、【超】がつく親バカです。

天界で浮きに浮いているバカ娘のことが心配で仕方ないのです。

友達がいないことを当人以上に憂えているのは比那名居のご当主様です、お父様です。

今回の蟄居もご本人は文字通り【泣く泣く】でしょう」

「ふーむ」

ネズミの賢将が腕組みしたまま顎をコリコリ掻いている。

横目で詐欺ウサギをちらと見る。

相方はゆっくりと瞼を閉じ、口をぎゅっとつぐんだ。

【空気を読む程度の能力】を有する永江衣玖。

一見は獣型の小妖、実は世間擦れしている大年寄り二人の微かなやりとりをなんとかとらえた。

この二人は恐らく比那名居の当主に対する策を同時に思いついたのだ。

ネズミが『これでやってみるか?』と問い、ウサギは『ワタシはイヤ』と答えたのだろう。

「なにか方法があるのですか?」

「あるようなないような、まぁ、ご当主様に頼み込むのが早道なのだがね……」

歯切れの悪い賢将。

「今回ばかりは直接お願いしても無理でしょう。

いくら私がご当主様の愛人とは言え、おねだりできないこともあります」

「え? 愛人……なの?」

これはビックリ。

「冗談ですが」

しれっと。

「お二人のやりとりに食い込みたかったのです」

「あはははー! おねーさん面白いねー」

ナズーリンは少し引いたが、てゐは大笑い。

ブラッキーな冗談にはウサギ妖の方が耐性がある。

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