紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 旧地獄のズバット(4)

「いやー、恐れ入った! 慧音先生、是非、旧都へ来てくれ。
相方の娘も一緒に歓迎するよ!
ナズーリン、オマエも寅丸と来いよ!」

慧音の講義を堪能した旧地獄の顔役が上機嫌で言った。

「んー、旧都か……
いいね、久方ぶりの地下世界か。
慧音どの、行こうよ」

少しだけ考えていたナズーリンだが、乗り気になったようだ。
歴史学者を誘う。

「旧地獄か、確かに興味はあるね。
よし、これもご縁だ、伺うとしようか」

「そうか! これは楽しみだ!
この星熊勇儀が負けを認めた性豪・上白沢慧音先生!
旧都へご招待だあ!」

「ゆ、勇儀さん? 性豪って……」

「慧音先生! あなたに【絶倫昇天大王】の称号を送らせていただく!」

「ちょっ、ちょっと待って!
そんな称号、お断りだ! やめてくれ!」

「何のお話ですか?」

星・もこ・パルが帰ってきた。

「勇儀どのと慧音どのがすっかり意気投合してね。
近いうちに地下に行こうと話がまとまったところなんだよ。
ご主人様、私たちもお呼ばれされたから行こうじゃないか」

自然に誤魔化すネズミ妖怪。
嘘はまったく言わずにさらりと欺く。

「あら、いいですねー、お勤めの都合をつけなきゃ。
それに地下にいくのでしたら、こいしさんのお姉さんにもご挨拶したいですね」

「寅丸、さとりに会うつもりなのか?」

勇儀が眉をひそめた。

「はい、何か不都合がありますの?」

「んー、そうか、せいぜい気をつけるんだな」

珍しく意味ありげな言い方。

「気遣いは無用だよ。
覚り妖怪への対処方法は心得ているからね」

ナズーリンが軽くいなした。

その晩は恒例の鶏の水炊き(慧音特製)をつつきながら大いに盛り上がった六人だった。

次の週末、ナズ星、ケネモコの四人は地下に続く竪穴を降りた。
降りた先の大きな橋で水橋パルスィが待っていた。

「ようこそ旧都へ」

スカートをちょっとつまみ、軽く膝を曲げてニッコリ。
はわー、キレカワイイ……
この案内嬢、レベル、メチャクチャたけえー。

大通り、一軒の大きな酒場に案内された。

【熱烈歓迎 絶倫昇天大王 上白沢慧音 御一行様】

豪華な横断幕がその店の屋根にかかっていた。

「ほう、さすがだな、慧音どのの勇名は地下にも轟いている」

「けいね、あれ、なんなの?」

ニヤニヤしているナズーリンと訝しげな妹紅。
キョトンとしている寅丸、そして頭を抱えている慧音。

パルスィが店の中に入って少しすると案内役と思しき鬼が店頭に出てきた。

「いやいや、ようこそいらっしゃいました!
貴方様が上白沢慧音先生ですね?
あの勇儀の姉御が完全に兜を脱いだ大性豪と聞いています!
三国一イヤラシく、最もねちっこい、百戦錬磨のインモラルスケベだと」

「な、な、なんだ!? 違う! や、やめてくれーーー!」

悲鳴のような叫び声。

「あ、寅丸さんですよね? ご無沙汰でございます」

寅丸とナズーリンは以前、旧地獄の大宴会に命蓮寺代表で招かれていた。
どこにいても目立つ武神の代理を覚えている鬼も多いのだろう。
反対にナズーリンはそれなりの付き合いがなければ印象が薄い。
今も完全にスルーされているが、そんなことを気にする密偵ネズミではない。

「するってぇと、こちらが【モコウ】さんですね?
こりゃあ美しい! しかしこんな綺麗な顔して慧音先生と……ウッへへへ」

地獄の鬼に上品さを求めるのは間違っているのだろうが、あまりにもナニだ。

「おう! 来たな! みんな早く上がっとくれ!」

しびれを切らした星熊勇儀が迎えに現れた。
勇儀に急かされ店に入る四人。
だが、不死人は歴史喰いの半獣にジト目を向けている。

「慧音? 説明してくれるよね?」

「む、ああ、あとでね……」

宴会が始まった。

招待客である四人は勇儀を中心に座っているが、パルスィは給仕のように忙しく動き回っている。
そのさまを見ていた慧音が勇儀に聞く。

「パルスィさんはどうして勇儀さんのそばにいないのか?」

すると、勇儀はそれまでの陽気な大声を潜め、小声で不機嫌そうに言った。

「パルスィは私とのことを大っぴらにしたくないんだとさ。
こういった席や往来ではなるべく私のそばにいないようにしているんだ」

「どうして? 恋人なのに」

これは妹紅。

「私のためなんだと。
立場がどうのと言っているんだ、私は全然気にしないんだがな。
だが、アイツ、これだけは譲らないんだよ」

そう言って少し口を尖らせた。

この旧地獄の顔役で実質的な総大将星熊勇儀が誰を連れ合いとするか。
遊びのうちは良いのだろうが、勇儀が誰かに執着したとなれば、それは極論すれば政治的にも影響を及ぼすかもしれない。
その辺りの諸々を考え、パルスィは一歩も二歩も引いているのだ。
星熊勇儀、この豪放磊落で面倒見が良く、いつでも公平な指導者の弱点にならないように。

以前はさんざん浮名を流した星熊勇儀だが、この数年【お持ち帰り】は皆無だった。
『私は見つけちまったのさ、本当に大事なものを』
その相手が緑眼の橋姫であることは公然の秘密だった。
顔役の【イロ】ならば好き放題もできるはずだが、パルスィは表には出ず、他人のことは決して評価せず、勇儀の心身だけを案じている。
橋姫という魔物として陰口すら叩かないのは自己否定に近い行動だ。
だが、そこそこ道理の分かる妖怪たちはこの献身に概ね好意的だった。

「バカ鬼にはもったいない才女だよ」

ぼそっと言ったのはナズーリン。

「なんだとお?」

「お酒、足りてる?」

タイミングよく割り込んできたのは噂のパルスィだった。
妹紅の横で酒瓶を構えている。

「あ、ああ、いただこうかな」

妹紅の杯に注ぎ終わり、去ろうとした腕を掴まれた。

「どうしたの? 妹紅さん」

妹紅は、なぜ引き止めてしまったのか自分でも分からない。

「そのう……私の酒も飲んでよ」

不思議そうにしつつも隣に座ったパルスィ。
杯を一気に空けた妹紅がそれを渡し、酒を注ぐ。
ちょびちょびと飲んでいる橋姫をじっと見ている。

「ふー、ごちそうさま」

杯を下ろしたパルスィ。
ルビーとエメラルドの瞳が数瞬だけお互いを縛り合った。

「ねえ、ホント、どうしたのよ?」

先に目線を外したパルスィが恥ずかしそうにたずねた。

「い、いや、なんでもないよ」

妹紅も少し顔を赤くして視線を逸らした。

この実に微妙なやり取りを固唾を飲んで見守っていた四人。

「おい、パルスィ、オマエまさか……」

勇儀が腰を浮かせた。
地獄の豪鬼が、らしくなく狼狽えている。

パチーン!
隣にいたナズーリンが勇儀の尻を叩いた。

「しっかりしろ!」

「う? ああ……」

ナズーリンが小声で叱る。

「妹紅どのはパルスィどのの心情を察して居ても立ってもいられなくなったんだ。
あの娘たちの誠心を疑ってつまらん勘ぐりをするな! バカモノ!」

珍しく真剣なネズミの賢将。

「そ、そうか、そうだよな。
む……我ながら情けない」

「キミの立場を保つため【陰】に徹する覚悟をした献妻に、優しい妹紅どのは情を乗せてしまったんだよ」

その意見に慧音が大きく頷いている。
このやり取り、当のモコ&パルに聞こえているのかどうかは分からない。

「……立場か、そんなモノと言いたいところだが、今の私が背負っているモノはそこそこ重いんだ」

「ああ、そうだろう。
だから、キミがそれを投げうってパルスィどのだけを求めたとしても彼女は喜ばないだろうね」

「そう思うか?」

「私も同感、パルスィさんはとても聡明だ。
大勢に慕われ、皆のために力を尽くし、太陽のように輝く勇儀どのが大好きなのだと思う。
だからこそ今の立場を受け入れているのだろう」

慧音が低い声でゆっくり、丁寧に言った。

「太陽って……なんだよ、私は地獄の鬼なんだぞ?」

いくら酒に酔っても赤くならないその顔にほんのりと朱がさした。

小さな声でポソポソしゃべっていた三人。
これまで黙って聞いていたもう一人がいきなり普段のトーンで話し始めた。

「そうですね、立場というものも大事ですからね」

寅丸星、地声が大きいし、ひそひそ話ができる性質でもない。
妹紅とパルスィも『何事か』と顔を向けた。

「私もナズーリンとは表向き主従関係ですから外ではあまり恋人らしいことはできません。
その辛さは、よーく分かります、はい」

「いやいやいやいやいやいやいや」×4

四人が揃って手を振る。
勇儀と慧音にモコ&パルが加わって。

「へ? なんですか皆さん? どういうことです?」

「あのだねー、貴方たちほど分かりやすく、ベッタベタでドロ甘なカップルは幻想郷にいないからね?」

慧音が代表して感想を述べた。

「そ、そうなんですか?」

寅丸は素で驚いている。
四人が揃ってガシガシと頷く。

「はああーーーー」

盛大なため息はナズーリン。

「傍からはそう見られているのに実態は【無限寸止め地獄】。
私の下半身を駆けめぐる波動エネルギーは行き場を無くして暴発してしまうよ、まったく……」

「な、ナズ! なんてこと言うんですか!」

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.