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ナズーリン! 旧地獄のズバット(5)

「おーーー! やってるねー!」

新たな参客に会場がどよめいた。
少女の風体だが、両側頭部から大きな角が生えている。
伊吹萃香、唯一地上を拠点とする鬼。
地下世界を捨てたと思われているのでこの場に現れたこと自体が珍しいのだ。

「萃香! 久しぶりだな! どういう風の吹き回しだ?」

「おー勇儀、たまにはこっちにも顔を出さないとオマエたちに忘れられちゃうと思ってねー。
みんな、元気そうでなによりだ」

勇儀に挨拶した後、宴会場をぐるりと見回す。
パルスィのところで萃香の視線が止まった。

「おや? 橋姫、オマエ、まだ勇儀にちょっかいかけてるのか?
身の程知らずがいい気になるんじゃないよ」

冗談か本気か、勇儀の近くにいたパルスィを軽く脅した。
萃香は勇儀がパルスィを娶ったことを知らない。
パルスィはその場で正座し、両手を前につく。
ほぼ土下座の姿勢でゆっくり、はっきりとしゃべり始めた。

「妾(わたし)は鬼の御大将、星熊勇儀様のお情けに縋って生き長らえている【下賤な妖怪】でございます。
伊吹様、この身はすぐに消えます故、お目汚しの段、なにとぞご容赦をくだいませ」

そう言って立ち上がり、勇儀たちに礼をした後、静まり返った宴席を辞してしまった。

勇儀は俯いたまま黙っている。
それはパルスィとの約束だから。
二人の仲を認めさせたい一本気な勇儀をパルスィはじっくりと説得した。

『旧都の顔役であるアナタが、忌み嫌われている橋姫と戯れていたら、それだけで不愉快に思うモノは多いはずよ。
もし、公の席でそのことを指摘されたら決して私を庇わないで。
捨て置いてね? 知らんぷりしてね?
私は大丈夫、うまくやり過ごして見せるから。
約束して、つまらない意地でアナタの看板に傷をつけないで』

(……パルスィ、鬼の約定だから我慢する。
でも、オマエにこんなことをさせてまで守る立場ってなんなんだ!
オマエへの意地って、つまらないモノなのかよお!)

びきゃ!

強く、強く握った拳の中で鬼の爪が割れた。

妹紅が慧音に何か囁き、立ち上がった。
慧音は『任せる』と一言だけ。
パルスィの後を追うように退席した不死鳥の化身。

伊吹萃香は戸惑っていた。
橋姫をちょっとからかって文句の一つも言えば気が済むところだったのに、宴席を白けさせてしまった。
面白くなさそうに呟く。

「なんだよう、これじゃワタシ、悪者みたいじゃんか」

「みたいじゃなくて、まんま悪者だろうが」

鬼の四天王に喧嘩を売ったのは小さなネズミだった。
このネズミの賢将、普段は相手の力量を見極めたうえで冷静に喧嘩を売るのだが【身内】が絡むと途端にお構い無しになる。
もちろん水橋パルスィはすでにナズーリンの【身内】だ。

「あれえ? オマエたちは確か……」

萃香がナズーリンと寅丸を交互に見る。

「そっかー、あの寺にいたヤツだな?」

「そうだ、私は命蓮寺の小間使い、ナズーリンだ。
こちらは私のご主人様で毘沙門天の代理、寅丸星様にあらせられる」

少し前のこと、萃香は『挨拶も無しに寺を建てた』と言って正体を隠して命蓮寺の面々をドツキまわした。
しかし、さすがに聖白蓮、寅丸星には隙が無かったし、桁外れの妖力を持つ居候のキメラとタヌキもドツキ損なった。
そしてこの生意気なネズミ妖怪も不思議に隙が無かった。

「オマエらには挨拶し損なったね」

萃香はカラカラと笑ったが、ナズーリンは自由奔放な鬼を半眼で見つめたままだった。
少しの間の後、隣にいた寅丸星が立ち上がろうとする気配。
普段はポワポワしているが、その正体は高次の武芸を極めた超特級の戦闘妖獣。
この獣はあの理不尽な振る舞いに対し、純粋に【怒って】いた。
本当の敵と認識すれば、天上界が認めた豪武の力を解放するかも知れない。

ナズーリンは『待て』とばかりに寅丸の肩をつかんだ。
こんなところで大事な主人に恥をかかせるわけには行かない。

(星、ここは私に任せて)

ナズーリンの囁きに、浮かしていた腰をぺたんと下ろした武神の代理。

(……はい、お願いします)

寅丸星は、己自身より信頼している最愛の半身が本気で告げる言葉を疑わない。

「キミが面白半分で寺の連中にちょっかいを出していたあの時、ウチの入道使いは打ち所が悪くて半日意識が戻らなかった。
小妖を庇おうとして無理な体勢で倒れたんだ。
生真面目で口うるさいが、仲間思いの優しい娘だ。
聖白蓮の元、皆、仏弟子ゆえ、キミなんぞに仕返しなどとは考えていないが面白かろうはずも無い。
……だから今後は命蓮寺には近づくなよ」

「はあ? 何を言ってるんだ? ネズミのくせに生意気だな」

「ウチの住職は怒っているんだよ(ご本尊の代理もね)」

「だからなんだよ、鬼相手に喧嘩を売りたいのか?」

「聖白蓮は【鬼退治】の秘術を知っているよ」

「うそつけ」

「鬼を完全に滅することはできない。
だが、ほぼ永遠に封印する方法はある。
あの住職はいくつもの魔道に手を染めた破戒僧だからね。
陰陽道にも明るいんだよ。
キミ、大魔法使い・聖白蓮をなめすぎだ」

「ふん」

「命を張って自分に尽くしてくれるモノが無意味に傷つけられたのだ。
笑って許すと思うか?
あの尼僧は信念に沿うことなら残酷なこともするよ。
知らなかったのか? 魔界、法界で多くの鬼を叩きのめしてきたんだ。
鬼退治はお手の物だよ」

「大層な事を言ってくれるねー」

「まだ分からんのか、では、分かるように言ってやろう。
聖白蓮はツボを持っている【ワキミの壺】をね」

「……うそだ……あれはもう無くなったはず……」

今日、初めて驚愕の表情をする伊吹萃香。

「試してみるかい?
聖白蓮にルール無用のデスマッチを申し込んでみなよ」

「ナズーリン! その辺で勘弁してやってくれ」

勇儀が間に入った。
ナズーリンは気心が知れた方の鬼の顔をちらっと見る。
そしてフッと笑った。
『オーケー、ここはキミの顔を立てよう』のサイン。

「萃香どの、それほど強いんだから勝手気ままにやるのは、まぁ分かるけどね。
だが、何でも思い通りになる訳ではないよ」

「うーー、オマエ、自分は大したことないくせに……
【虎の威をかる狐】だな!」

「いや、私はただの【鼠】だよ」

この二人の遺恨は今後、長引きそうな気配があった。

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