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ナズーリン! 旧地獄のズバット(7)

「話は変わるけど、明日、地霊殿に行きたいんだが、渡りをお願いできないかな」

「やっぱりさとりのところに行くのか?」

「先日も気になったんだが、その口ぶりだと乗り気ではなさそうだね。
なぜだい?」

「アイツ等のことはそっとしておいてやってくれないか」

「その『アイツ等』とは妹のこいしも含むってことだね?」

「そう言うことだ」

「なおさら気になるな。
古明地こいしは命蓮寺の信徒なんだ。
こいしを見れば、その姉の器量にも興味が湧くだろ?」

「オマエ、少しは真面目に話しなよ。
古明地さとりに会うってことがどう言うことか分かっているのか?」

幻想郷各地に潜入調査を敢行しているナズーリンだが、地霊殿は手つかずだった。
湧き出る怨霊を抑え込むために建造された地霊殿。
その主は怨霊をはじめ誰もが恐れ怯む覚り妖怪。

「覚り妖怪は確かに厄介な相手だが、対処方法がないわけではない。
思考を読む妖怪、魔物、術者は結構いるからね。
対処方法は大きく分けて二つある。
一つは表層意識にノイズを混ぜる方法、もう一つは意識を沈み込ませて表層をブランクにする方法だ」

「んーー、なんだか分かんないよ」

勇儀が困り顔で、くいっと小首をかしげた。
あれれ? とても可愛いじゃないか。

「まぁ、そうだろうね。
いいよ、気にしないでくれ」

最近頻繁に命蓮寺を訪れる古明地こいし。
彼女はたびたび姉のさとりの話をする。

『クチナシの花が咲いていたの、お姉ちゃんの好きな花なんだ』
『これ、おいしい……お姉ちゃんはタコ焼き食べたことあるのかな?』
『あの図書館、本好きのお姉ちゃんを連れて行ってあげたいな』

姉を慕っているのは間違いないだろう。
それでいて今の微妙に距離を感じさせる状況はなにゆえか。
お節介シンドロームが治らないナズーリンはムズムズしていた。

「勇儀どのは、古明地さとりとは親しいのかい?」

「親しいというほどではないが、交流が無い訳じゃない。
立場ってこともあるしね」

そう言って少し顔をしかめる。

上下関係とか、管理・支配などが大嫌いな勇儀にとって【立場】という言い方にはかなり抵抗があるらしい。
だが、旧都の顔役である勇儀は怨霊や動物妖怪がらみでトラブルが起きたときに地霊殿と確認を行う【立場】だ。

「つまり、交流があるんだね?
ぶっちゃけ、キミの印象はどうなの?」

ナズーリンの問いに勇儀の目線はしばらく左に向けられていたが、軽いため息のあと、右に移ったまま考え込んでいる。
これは最初さとりのことを記憶から引っ張り出し、次に伝える言葉を慎重に選んでいることの表れだ。
単純で隠し事のできない鬼の心理はその所作からも分かりやすい。
この程度の読心術の基礎はナズーリンにとって、なんてことはない。
だからこそ興味深い。
この豪放な鬼の大将が、伝える言葉を選んでいる。
その相手のことが気になる。

「偉そうで、いけ好かないヤツだと思っていたさ。
でも、伝え聞いた話では、んー、かなり辛い思いをしてきハズなんだよな」

何についても一刀両断、スパッと言い切る地獄の豪鬼がハッキリしない。
ネズミの賢将は思い切って聞いてみる。

「ねえ、キミ、もしかして古明地さとりと何かあったの?」

「え、う……」

驚いたようにナズーリンを見た勇儀はそのままお尻をずらして湯船に沈み込んでいった。
口の辺りまで沈み、ブクブク言っている。

「おい、なんだよ、聞こえないって」

湯をかき分け、近くに寄るナズーリン。

「ぷく、ぶぶくぶくぶく……」

「こら、しっかりしろよ。
でないと、その特大肉まんを揉み倒して、先端を泣くまで扱きあげるぞ」

勇儀が湯面から顔を出す。

「面白いじゃないか……
やって見ろよ、その代わりにオマエのちっちゃな前庭を形が変わるまで舐り倒すからな」

「ねえ、こんな話をしてる場合じゃないだろ?
真面目な話だぞ。
古明地さとりの話が途中だ」

「オマエが脱線させたんじゃないか!」

「約束してくれ」

少し冷静になった勇儀が抑えた口調で言った。

「あん?」

「これから話すことをパルスィには言わないと」

「ふーむ、言いたいことは大体分かった」

「な、なんで?」

「キミ、古明地さとりにコナをかけたんだろ?」

「……オマエも【覚り】なのか?」

「パルスィどのに内緒ってことで見当はつくさ」

「そうなのか……。
昔の話なんだがな。
もちろんパルスィと出会う前のことだ」

「今の彼女はそんなことで妬んだりしないと思うけどね」

「ちょっと好みだったんだ。
私、ああいった小柄で一途で芯の強いタイプに弱いのかな」

「ふーん、じゃあ、私はどうなの?
その条件に当てはまる自信があるけど?」

片目をつぶったナズーリンがからかうように問う。

「え……? そう言えばそうか。
でも、そそられないなあ。
性格は最悪だけど顔はまあまあだし……
それに、一緒にいてエラく楽しいしなぁ。
んー、一体、何がダメなんだろうか……」

ナズーリンをじっと見つめる。

「い、いいよ! 真剣に考えなくていいよ!
冗談なんだから!」

「この世でオマエと私、二人きりになったら好きになるかもしれないな」

「あーそうかい、ありがとさん!
なんだい、まったく……」

ナズーリンは勇儀のことを憎からず思っているので何だか面白くない。

「ははは、そんなに怒るなよ。
こんな話ができるのはこの世でオマエだけだ。
私、オマエのことは結構気に入っているんだぞ?」

「ふんっだ、遅いよ」

閑話休題。

「キミ、確か少女の趣味は無かったよね?」

「無論だが、アイツは見た目と違って大人の女だよ。
それにド根性もある」

「ド根性とは懐かしいねー。
でも、キミが言うのだから相当なモノなんだろう」

「実際に会ってみたらイイ女だったから、いつものようにモノにしようと迫ったんだ」

「キミの色狂いはともかく、積極性には敬意を表するよ」

「だが、さとりは冷めた目で見返すだけだった」

「その時キミは何を考えていたんだ?」

「まずは裸に剥いて、どうやって責め立ててやろうかと、あれこれ考えていたんだ」

「相手が覚り妖怪だって知ってるよね?」

「と、当然だろ」

「結果、どうなったの?」

「フられたんだよ、あっさりな」

「『当然だろ』キミはやっぱりバカだな」

「……フられたからといって、さとりを嫌いになった訳じゃない。
今だって好みさ、イイ女だもん。
あ、パルスィには言ってくれるなよ?
私、もう、パルスィだけなんだから」

「分かっているよ」

「だが、さとりが困っているなら助けてやりたい。
アイツを困らせるモノは近づけたくないんだ」

「キミのそういう気質は好ましいね。
……待てよ【近づけたくない】って私のことなの?」

「オマエとさとりの組み合わせは、ロクなことにならない気がする」

「何か根拠があるのかい?」

「なんとなくだよ」

「むー、その言葉、嫌いになりそうだ」

「なあ、ナズーリン。
オマエは、さとりに会ってなにをしたいんだ?」

不安げな星熊勇儀。
これはとても珍しい。

「ふふっ、キミは意外と心配性なんだな。
いや、優しすぎるのかな?」

「おっと、そこは取り消しくれよ。
地獄の鬼の矜持にかかわる。
【星熊勇儀は優しい鬼】なんて評されたら表を歩けなくなるじゃないか」

勇儀が口を尖らして抗議する。
これも実に可愛い。

「オーライ、取り消すよ、んふふふ。
……では本題だ。
古明地こいしが命蓮寺の信者になったことは先に言ったとおりだ」

最近、ちょいちょい顔を出し、寺の連中と絡んでいるこいし。

小傘と雲山とふらふら空を散歩したり。
響子と一緒に掃除をしていたり。
時にはマミゾウ親分の尻尾を枕にシェスタ。
珍しい花を摘んできては一輪に見せたり。
聖と問答めいたやりとりをすることもある。
寅丸を手伝って芋の皮むきをしたり。
ムラサと合唱していたこともある。
そして、一番仲が良く見えるのは封獣ぬえ。
こいしが寺でお泊りするとき、大抵はぬえの部屋で夜中まで遊んでいるようだ。

こんな感じで、とても馴染んでいるように見える。

「まぁ、楽しそうだよね、面白い娘だよ」

【覚る】力を自ら封じた覚り妖怪
古明地こいしは極めて特殊な存在となってしまった。
ナズーリンは、こいしの行動範囲やその行動原理に興味を持っている。
幻想郷内を徘徊する彼女に何度か同行したが、いつも途中で振り切られてしまっていた。
この名うての探索者のマークを外せるモノはこれまで存在しなかったのでプライドを刺激されている。

そして【目】を閉じてしまった妹、開いたままで怨霊封じの役を受け入れた姉、ナズーリンはその経緯にも興味をそそられている。

「古明地さとりのことは詳しくは知らない。
だが、古明地こいしは少しは知っている。
あの姉妹、このままで良いと思う?」

勇儀の目を見ながら真剣に問う。

「む……それは……」

言葉にはしないが【否】と伝わる。

「こいしが望んでいるのは何だと思う?
『お姉ちゃんともっと仲良くしたい』じゃないか?
私、少し橋渡しをしてやりたいんだ」

鬼の御大将は本質を見誤ることはない。
だが、小難しい言葉を使った説明で誤解を招いては元も子もない。
賢将は敢えて平易な言い方を用いた。

「まったく、お節介なことだな」

そう言う勇儀の嘲笑は随分と柔らかかった。

「分かっているさ、てーゐにもしょっちゅう言われる。
『全てを助けたいの? アナタ何様のつもり?』ってね。
でも、私が助けたいのは、身近にいて、尚且つ、私が気に入った限られたモノだけだ。
独りよがりで、気紛れな選択なのさ」

「それだと随分、たくさん、いるんじゃないか?」

「……そうかな?」

「オマエは自分が思っているよりずーっとお人好しだぞ? わはははっ」

勇儀が楽しそうに笑った。

「うーん、そうなのかなぁ。
私、狡猾で抜け目が無く、計算高い小悪党のつもりなんだけどね」

主人である寅丸星は幻想郷きっての【お人好し】との定評があるが、事情通の間では、その従者は単に口が悪く取っつきにくいだけで、実は主人に勝るとも劣らない【お人好し】と言われている。

「わははは、小悪党ってのは違いないがな」

「笑いすぎだろ、そんなに可笑しいかい?」

「ははは……よし、いいだろう。
行ってこいよ、さとりのところへ。
アイツがオマエの好みかどうかは分からんがな」

「それは別にしても、彼女には個人的に興味がある。
憧れの先生に会ってみたいのさ」

「さとりがか? なんの先生なんだ?」

「キミが慧音先生に会いたかったようなものさ」

その夜は温泉宿に皆で泊まった。
部屋割りでナズーリンが悶着を起こしたので、結局、大きめの部屋で全員が雑魚寝をする事にした。

勇儀、星、慧音、パルスィ、妹紅、それぞれ浴衣姿が実に艶めかしい。
ナズーリンだけは大人用の浴衣が大きすぎて残念な感じだった。
しかし、当人は大満足。

(うむむ、望外の幸運だ!
タイプの異なる美人が五人! そして湯上がりの浴衣姿!
こんなスーパーショットは滅多にお目にかかれまい!)

夜中までガールズトーク(?)で盛り上がったが、トンでもない仕儀に及ぶモノはいなかった(ちょっと残念)。

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