紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

紅魔の騎士ナズーリン!(1)

「この長雨、うっとうしいわねー」

「そう?」

「アナタはあまり外に出ないから気にならないでしょうけど、私は面白くないのよ」

「この雨は私のせいじゃないわよ」

一時期、魔法を使って紅魔館周辺に雨を降らせていたパチュリー・ノーレッジが友人の吸血鬼に言い返した。

季節柄、雨の日が続く幻想郷。
レミリア・スカーレットはティータイムに同席した動かない大図書館に軽く突っかかってみただけだ。

「まあいいわ。
あのね、今夜は気晴らしに吟遊詩人を招いているの」

「ふうん、それはいかにも貴族らしい趣味ね」

興味なさそうに答える。

「パチェも知っているヒトよ」

「ん? 私、吟遊詩人に知り合いはいないけど?」

「ナズーリンよ」

「……ああ、なるほどね。
話は上手だし、経験豊富そうだからそれなりに楽しめるんじゃない?」

「パチェも一緒にどお?」

「どうしようかしら、読みたい本があるし……」

図書館魔女はネズミの賢将をそれなりに認めているが、ある理由から苦手としている。
もっともらしい理由をつけてエスケープを試みる。

「助手の鴉天狗も一緒に来るみたいよ」

「……そうなの?」

「忙しいのなら無理にとは言わないけど」

レミリアはニヤつかないように注意しながら言った。
この友人がツインテールの鴉天狗に御執心であることを知っているのだから。

「そ、そうね、今夜は特に用事はないから、わたヂも聞かせてもらおうかしリャ」

パの字は全力で平静を装ってみせたが、ちょっと噛んだ。

はたてが来るなら話は別だ。
パチュリー・ノーレッジが自身の深層を見られてもかまわないと思う唯一の存在、姫海棠はたて。
心の機微、特に恋愛に関しては超不器用な学識魔女がようやく巡り逢ったすべてを許せそうな存在。
つまり、キュンキュンして、ビクッビクンとくる相手だ。
だが、そのはたてはネズミ妖怪を【ナズーリンデスク】と呼び慕っている。
彼女がいつも楽しそうに【デスク】の話をするのをパチは我慢して聞いているのだ。
【デスク】と呼ぶようになった経緯は聞いているし、恋愛感情ではなく純粋な敬愛だと理解はしている。
だが、パッチェさんは面白くなかった。
ちょいパル、いや、かなりパルパルだった。

そうは言っても、本人にも責任はある。
恋愛にヴェリィ・ウブな本虫魔女は、ここ一番で踏み込みが浅く詰めが甘い。
どフリーの決定機で何度もフカしているぽんこつストライカーなのだ。
故にこの二人、パチュ×はたは友人以上恋人未満の状態が長く、どーにもじれったい。
パチュリーとしては、そろそろここらでアフターバーナー全開で一気にカッ飛びたいのだ。

(よし、お風呂に入ってこよう!)

心を決めるパチュリー。
万が一に備えるのだ、念のためなのだ。
この思い込み先行の残念な心構えに関する意見やツッコミは勘弁してあげて欲しい。

ナズーリンと姫海棠はたてが到着した。

「レディ・スカーレット。
今宵はお招きいただきありがとうございます」

ネズミの賢将と鴉天狗が並んでお辞儀する。

「ネズミの騎士どの、いえ、今夜は吟遊詩人だったわね。
ようこそ紅魔館へ」

レミリアとナズーリンの【お遊び】。
レミリアを『レディ』、ナズーリンを『ネズミの騎士』と呼び合い、ロール(役割、立場)を楽しむ【お遊び】。
だが、この仮初めの立場はいくつかの事柄を経て、洒落ではなくなりつつある。
紅魔館当主は相変わらず我が儘で子供っぽいが、今までは忘れた頃に示されていた【本当のカリスマ】の現出頻度がここ最近は高いように見えるのだ。
支配者としての威厳に本物のレディ=淑女の品格と振る舞いが加わりつつある。
ナズーリンから度々レディと扱われることで性質の根幹に微妙な変化が現れているのか。
洒落が現実に食い込んで影響を与え始めているのか。

レディ・スカーレット

何十年か何百年か後には皆がそう呼ぶようになるかも知れない。

「吟遊詩人としてお招きいただきましたが、実のところ、歌は得手ではございません。
まぁ、良く言って語り部、楽曲無しの一人芝居がせいぜいです。
しかしながらこのナズーリンの【話芸】は、これまで誰一人として退屈させたことがありません」

ネズミの芸人が芝居っ気たっぷりに笑う。

「今宵の余興は貴方に任せているのよ。
楽しませてくれるのなら内容は気にしないわ」

レミリアが鷹揚に答える。

「ありがとうございます、レディ。
かしこまりました、忘れられない一夜を提供いたしましょう」

「まずはディナーね。
食事の後で楽しませていただくわ」

本来は食事会がメインだった。

発端は長雨で退屈をしていたレミリアがナズーリンに手紙を出したことによる。
その内容をざっくり説明すると……

『退屈なのよ、遊びに来ない?
ご馳走を用意するから。
そんで、その時に面白いお話とか聞かせてくれたら嬉しいわ。
フランもアナタに会いたがっているの。
お供の方もオッケーよ、どうかしら?』

同じく雨天続きで暇にしていたナズーリンは快諾した。
同伴者可とのことなので、主人、寅丸星を誘おうかと思ったが、十六夜咲夜と悶着を起こしそうな予感がしたのでやめた。
何に対しても心の寛い毘沙門天の代理だが、黒い星五つのハイパーメイドだけは過剰なまでに警戒しているから。
あり得ないことであるが、寅丸星はナズーリンが咲夜と浮気をするのではと警戒しているのだ。
これこそ杞憂の世界選手権なのだが、恋する乙女のアイシールドは面倒臭く曇ってしまうものだ。
感情的になった寅丸星はその剛力も相俟って文字通り手がつけられなくなる。
そして、そのゴタゴタの収拾はナズーリンが担当することになる、百発百中でそうなる。
だからやめた。
図書館魔女のこともあるので【自称:一番弟子】姫海棠はたてを誘うことにした。

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