紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

紅魔の騎士ナズーリン!(2)

超人メイドの仕切りによる晩餐会は、見た目、質、量、すべてにおいて満足のいくものだった。
メイド長は最近イタリアンに凝っているそうで、ピザやパスタも供されている。
正式なコース料理という訳ではないのでこの程度のカオスはご愛敬だ。

「騎士さま、こちらのピッツアも召し上がってくださいな。
【マルグェリィッタ】と呼ばれる定番の一つですのよ」

フランドール・スカーレットは背筋を伸ばし、顎をひき、澄まして言った。
いつもと違うフリル多めのオレンジ色のドレスは彼女なりのおめかし。
ナズーリンの前、淑女っぽく振る舞おうとするフラン。
なんだか微笑ましい。
悪魔の妹は、以前、紅魔館で催されたパーティーで姉に贈った細工物を大絶賛してくれた気遣いの上手い洒脱な【ネズミの騎士さま】に憧れている。

同族からも疎まれるほど強大な力を持った吸血鬼の姉妹。
流れ流れて今は幻想郷。
その性質の違いから実の姉妹なのに接点が希だった。
だが、常に相手を意識していたし、やや歪んでいたものの確かな愛情を抱いていた。
異変を経て、妹が変わり始めた。
そして姉も変わろうと思った。
しかし愛情表現の術(すべ)を知らない姉と妹の間には、歩み寄れそうですれ違うむず痒い時間がだらだらと流れていた。

その後押し、最後の一歩を踏み出させる切っ掛けを与えたのが賢将ナズーリンだった。
踏み越えてみれば何と言うことはなかった。
お互いの愛は正しく純粋だった。

この美姉妹、今ではとても仲が良い。
フランはレミリアの隣の部屋で寝起きしている。
その部屋は姉が妹のために自分一人で時間をかけて丁寧に仕度したものだった。

引っ越し(部屋の)を告げられた日、妹は姉に抱きつき、わんわん泣いた。

『うれしい ありがとう』

何度も繰り返した。

その日に妹から究極の宝物【レミリア・スカーレットのバラ】を贈られた姉も繰り返した。

『うれしい ありがとう ……ごめんなさい』

抱きしめあって涙する少女二人。
最凶の魔族、残忍で冷酷、そして禍々しくて歪な存在。
なのに純粋な想いが通じ合った。
もう、フランが地下の部屋に戻ることはないだろう。
姉妹愛の永劫の亀鑑はここに生まれた。

紅魔館が歓喜に包まれた瞬間だった。
紅美鈴は人目もはばからずボロボロ涙をこぼし、十六夜咲夜はハンカチで顔を覆い静かに泣いた。
パチュリー・ノーレッジは口元を押さえながら『良かったわね、レミィ、……本当に良かったわね』と呟いた。
その日から【ネズミの騎士】は紅魔館にとって大恩ある賓客となった。

そして今。
博識な賢将がピザ・マルゲリータを知らないはずはない。
だが、未来のレディに対し、野暮を言うはずもない。

「【マルグェリィッタ】というのですか。
ありがとうございます。
……うむ、これは美味、うむむ……
チーズの質も良いが、ピザ生地が秀逸ですね。
それに、これほど香りの良いオレガノは初めてです。
鼻腔が完全に制圧されてしまいました、実に鮮やかに。
なるほど、定番メニューにこそ質の違いが現れるのですね」

「でしょー! あっ……でございましょう? うふふ」

気を張り続けていないとすぐにお侠な地が出てしまうフラン。
姉であるレミリアが騎士さまから【レディ】と呼ばれていることが誇らしくもあり、羨ましくもある。
この騎士さまに認めてもらいたい。
いつか自分も姉と同じように【レディ】と呼ばれたい。
フランドール・スカーレットの直近の目標だった

「庭で採れたものです。
当館の庭師(本職は門番)が育てる香草はどこに出しても恥ずかしくない質だと思っております」

十六夜咲夜が後を引き取りながら説明し、軽く頭を下げた。

「このオレガノ、市場に出せば通常流通品の数倍の値が付くでしょう。
……おっと、これは下世話な物言いでしたね、失礼しました。
しかし困ってしまいましたね。
この先、私はどんなピザを食べても満足できないでしょう」

軽くおどけるネズミの騎士。
それを見て口元に手の甲を当てながらクスっと笑ったメイド長。
気品があり、且つ可憐であった(これぞ満点)。

「ナズーリンさんのお褒めの言葉は庭師に伝えておきます。
きっと、とても喜ぶでしょう」

「ねえ、騎士さま、いつでもここへいらしてくださいな!
お姉さま、よろしいですよね? ね?」

フランの懇願にゆっくり目を閉じ、軽く頷いたレミリア。
気品に加え、威厳のある王者の【了承】だった。

「ありがとうございます、レディ」

ナズーリンは席を立ち、胸に手を当てお辞儀をした。

晩餐が終わり、広間にはレミリアとフランドール、パチュリーと咲夜、そして部屋着に着替えた紅美鈴、小悪魔も部屋の隅で待機している。

「私、とっても楽しみです!」

全身で喜びを表現している美鈴。
こんな大雨の日の門番業務は水系の妖精メイドに代わってもらうことがある。

「今夜は特別よ。
お嬢様のお計らいに感謝なさい」

咲夜が静かに告げた。

「はい!
お嬢様! ありがとうございます!」

当主は軽く手を挙げて応えた。
美鈴本人は立場を弁え距離をとっているが、レミリアはこの気だての良い忠義者を気に入っている。
でなければ【紅】の姓を許置するはずもない。

「座りなさいな。
お茶を淹れてあげるわ」

「ありがとうございます、咲夜さん」

妖怪である美鈴が人間の咲夜になんだか遠慮をしている。
ナズーリンは咲夜の美鈴に対する態度が気にかかっていた。

「咲夜は先達への礼節を弁えているわ」

レミリアがナズーリンの顔を見、先回りして答えた。
ネズミの騎士は改めて気を引き締める。

(う、これは迂闊だった、不審が顔に出ていたようだ。
それを見逃さないレディ・スカーレット、やはり【本物】か)

「……そうでしょうね」

とりあえず応じたナズーリン。

「だって、咲夜の方が年上だし、先輩だもの」

「それはどういうことですか?」

人間である十六夜咲夜が妖怪:紅美鈴より年長だとは思えない。

「ふふふ、我が家にはまだまだ秘密があるのよ」

楽しそうに笑う紅魔館当主。

(むう、やはり咲夜どのには何かあるのか……
気にはなるけど、今日のプライオは別にあるからね)

ナズーリンはスイッチを切り替えた。

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