紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

紅魔の騎士ナズーリン!(5)

翌朝、パチュリーは食堂に向かう廊下ではたてとばったり会った。

「パチュリー館長、おはようございます!」

「おはよう、昨夜はよく眠れた?」

「はい! とっても快適な寝室でした」

(ここに住んでもいいのよ。
むしろ一緒に暮らしましょう)

妄想モードにシフトしたパッチェさん。

「実はあのあと、こっそり館長のお部屋に遊びに行こうかなーって思っていたんです」

「へ? な……なんですって」

「でも、お部屋の場所が分かりませんでしたからあきらめました。
えへへへ」

(う……う、うおー!! どおおおーりゃあああー!!)

【脳パチ(脳内にいるアクティヴなパチュリーのこと)・クウガ】が脳内在住のグロンギ小悪魔型怪人へ、怒りの妄想ライジングマイティキックを見舞った。
破壊力50トン、小悪魔怪人の半径3kmが大爆発した(脳内イメージ)。

(だから! だから言ったじゃないのーーー!!)

砕けそうなほど奥歯を噛みしめるパチュリー。
小悪魔のデコに【火符「アグニシャイン上級」】を内向きに貼り付けたまま全開発動させてやる、絶対やってやる。

チュッ

(ほへ?)

はたてがパチュリーのほっぺに軽いキッスをした。

「えと、朝の挨拶、モーニングキッスです。
西洋風の場所だから挨拶も西洋風にしてみました……
なんちゃって、えへへへ」

少し恥ずかしそうに笑った。

(ふおうむう!)

途端に怒りパワーがそのままラヴパワーに強制変換される。

「じゃ、わ、わた、私もお返ししなきゃいけないわね!」

自分より背の高いはたて。
爪先立ちで背伸びするパチュリー。
はたても膝を屈め、顔を傾け【おいでください】ポジション。
あとちょっと、もうちょっとで届きそう。

「朝食のご用意ができております」

十六夜咲夜が静かに告げた。

「さ、さ、さ、咲夜! いつからそこにいたの!?」

びっくりしたなぁー、もおー(三波●介)

「『パチュリー館長、おはようございます!』のあたりからですね」

「ド頭から!? 全然分からなかったわ」

何故二人ともその存在に気がつかなかったのか。

「気配を殺しておりましたから」

「はあ? いったい何のために?」

思わず詰め寄るウブブ魔女。

「そのご質問に対し、明快な回答が見つけられません。
強いて言えば興味本位でしょうか」

淡々と答えるパーフェクトメイドにパチュリーは頭が頭痛で痛くなってきた。

十六夜咲夜。

伝説級の美貌と卓抜した戦闘力、一般常識もあり、的確な判断力をもって献身的に主人に仕える完璧な従者。
どこを突ついても文句の言いようの無い幻想郷屈指の麗人。
だが、身内は知っている。
実はぶっ飛んでいることを。
百分の一くらいの確率で繰り出されるのは、異常事態に慣れっこな紅魔館住人でさえ受け止めきれない『え? なんで? どうして? 意味分かんない!』な言動。
普段がストレートに完璧なだけに、突然タイミングを外されたチェンジアップのようだ。
つまり、手も足も出ない。
呆然と見送るか、無様に空振りするしかできない。

「う……もういいわよ。
でも、皆には内緒にしておいて」

「かしこまりました」

まったく表情を変えずに軽く頭を下げる咲夜。
パチュリーは不安を感じた。
この忠実なメイド長が約束を破ることはないと知っている。
なのに漠然と不安が残る。
だから念のために聞いてみる。

「咲夜、なにを内緒にするのか分かっているわよね」

「もちろんでございます。
パチュリー様とはたてさんが朝っぱらから乳繰りあって……」

急に言葉を切った咲夜はポケットからメモ帳を取り出し、真剣にページをめくっている。
そして『あ、これだ』と呟く。

「……『きゃっきゃ うふふ』だったことを口外しないということです」

皮を剥いたままで放り出したようなダイレクトで雑な物言いだ。
だが、パチュリーは不思議なアイテムの方に反応した。

「ねえ、咲夜、そのメモ帳、ほかになにが書いてあるの?
気になるわ、見せてくれる?」

そんなモノがあったなんて知らなかった。
とても気になる。
このちょっとだけバグのある完璧超人の思考・行動基準の謎に迫れるかもしれない。
知識欲旺盛な密室魔女は探求心を刺激された。

「これは職務遂行にあたって必要な事柄や用語を記録しているものです。
お見せするようなものではございません」

きっぱりとはねつけられた。

「咲夜……私は、見せて、と言ったのよ?」

立場の違いを分からせるように乾いた冷たい声。
咲夜の眉間に少しだけ皺が寄った。

「パチュリー館長、それは無しですよ」

それまで黙っていたはたてが割って入ってきた。

「私も取材メモや下書きの原稿は見られたくないですもん。
館長も研究途中のノートを他人に見られたくはないですよね?」

頬がくっつくほど笑顔を近づけてきた。

「そ、そうね…… 咲夜、すまなかったわ」

自分でも驚くほど素直に謝罪の言葉が出た。
これまで好奇心を満たすためには他人の気持ちなど斟酌しなかったパチュリー。
今も高圧的な物言いをしてしまっていた。
はたてと出会ってから少しはマシになってきたと思っていたのに。

(……私って、やっぱりはたてがいてくれないとダメなのかも)

「パチュリー様、お気になさらずに。
朝食のご用意ができておりますので食堂へお越しください」

十六夜咲夜が穏やかに言った。
今のことは水に流すということだ。
きっぷの良さも魅力の一つ。

「あの、さっきの続きなんだけど……」

超レアアイテム【咲夜メモ】は諦めるとしても、このままウヤムヤにしてはマズいような気がする。

「はい、内緒でございますね」

にっこり。

「そ、そうね、頼むわよ」

(これでいい……いいのよね?)

パチュリーは特A機密事項のつもりだが、紅魔館の皆さん、いや、幻想郷の誰にバレたとしても『ふーん、それで?』と返ってくるだろう。
『博麗神社のお賽銭箱はいっつも空っぽだそうだ』
『ふーん、それで?』てなもんだ。

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.