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紅魔の騎士ナズーリン!(6)

遅めの朝食。
ナズーリンはすでに席に着いており、隣に張り付いているフランと談笑している。
当主レミリアは妹に無理やり起こされたのかとても眠そうだ。
悪魔の妹も基本的には夜行性のはずだが、今朝は元気一杯。
ちゃんと眠ったのだろうか。

「それでねそれでね、騎士さま! 私が思うに……」

「良いところに気がつかれました。
実を言えばそこが不思議なところでございますね。
考えられるのは……」

フランは昨晩の物語のなかで気になったことについて自説を展開しているようだ。
ナズーリンは今朝も語り部に扮する【ネズミの騎士】として振る舞っている。

雨は上がったようだが、外は未だ荒れ模様。
時折突風が吹いていた。

朝食後も椅子にもたれ、うとうとしているレミリア。
今朝はハイテンションガールに『起きて! 起きようよ、お姉さま!』と耳元で騒がれた。
『起きないとくすぐっちゃうよ!』と体中を撫で繰り回され、挙句、最深部のイケナイところにまで手が滑り込んできたので飛び起きたのだ。

(まったく、フランったら……んー、二度寝しようかな)

寝不足は美容の大敵なのだから。
ナズーリンとはたては既に辞している。
その際にフランが何か言っていたようだが、睡魔にほとんど負けていたレミリアは生返事をしただけだった。

「お嬢様!! 大変です!!」

すーかすっかとソファーで寝ていたレミリアは咲夜と妖精メイドに叩き起こされた。

「ふが…… らぁにぃ?」

「妹様が! フランドール様が!」

何やらただならぬ雰囲気。

「お嬢様! 妹様が!」

レミリアは緊急起動する。

「落ち着きなさい! 何があったというの!?」

咲夜はあわあわ言っている妖精メイドを制した。
当主の冷静な様子を確認した。
自分を落ち着かせるように小さい深呼吸をひとつ。
そしてハッキリと告げた。

「三十分ほど前です。
妹様が橋の上で強い風に飛ばされ、濁流に飲み込まれました。
ナズーリンさんが後を追って飛び込んだそうです」

レミリア達のように小柄な魔物にとって普段の生活で最も注意すべきなのは強風なのだ。
魔力を発動し、自身の位置を固定しない限りは少女の外見相応の体重しかない。
しかも大きな羽根があるため突風に煽られやすい。

何故こんな日に外出したのか。
咲夜の話によるとフランドールは『お姉様は良いと言った』と。
来客を少し先の小径まで見送りたいとのことだった。

(あの時何か言っていたのはこのことだったのか……)

レミリアは自分の迂闊さを呪った。

己が不覚を悔やんでいるのは咲夜も同じ。
天候を見て危うさを感じたが、主人の許可があるなら是非も無かった。
念のため妖精メイドの中でも比較的優秀な二体(No.6&7)をお供に付けた。
しかし、今にして思えばナズーリンの言葉をもっと心に留めおくべきだったのだ。

『咲夜どの、本当によろしいのか?』

時を操れる自分がその場にいればこんなアクシデントは難なく回避できたのに。
館の雑事など後回しにすれば良かった。

「咲夜! パチェを連れてきて! 美鈴も!」

その命令が言い終わらないうちにメイド長は消えていた。
そしてレミリアは表門に向かって走り出した。

レミリアが表門に到着した時には既に咲夜、パチュリー、美鈴が揃っていた。
フランと同行していた妖精メイド二体もいる。

妖精たちの話では【お見送り】に出たフランドールはナズーリンの再三の注意にもかかわらず、弾むような足取りではしゃいでいたそうだ。
そして橋の上で突風に持って行かれ、急流に飲まれた。
突然のことに驚き凝固してしまった妖精メイドたちとはたて。
だが、一秒も経たず、灰色の塊が川に飛び込んでいた。

『デスクーーッ!』

すぐに飛び立ったはたては上空からしばらく濁流に沿って探してみたが、二人共見つけられなかった。
このままでは手遅れになると判断したはたては橋上に戻り、呆気にとられている妖精メイドたちに指示を出した。

『あなた方はお屋敷に急いで伝えてください!
取り敢えずここに来てもらうように!
私は命蓮寺に行きます!』

美鈴がパチュリーと妖精メイドを両脇に抱え、力強く走り出す。
もう一体の妖精は状況説明のために館内に残した。
咲夜は薄い陽光からレミリアを庇いつつ、少しずつ時を止めながら目的地に向かう。
この強風ではよほどの飛行能力がなければ宙に浮くのは危ない。

姫海棠はたては突風を躱し、捌きながら全速力で命蓮寺に飛ぶ。
川ならば河童かとも思ったが、あの濁流には手も足も出まい。
千里眼の犬走椛もその所在が分からないのですぐに見つかるとは限らない。
まずは居場所の確定できている命蓮寺に行くべきだと判断した。

寺に到着したはたてはナズーリンたちのことを伝える。
状況を聞いて青ざめる寅丸星。

「そんな……だって、ナズーリンは……ほとんど泳げないんです!
ムラサ! ムラサーーー!」

水難事故の第一人者を呼ぶ。

「どーしたのー?」

駆け回ろうとしていた寅丸の前に当人がひょっこりと現れた。

「ナズーリンとフランさんが川に飲まれました!」

「よし、詳しい話は後で! まずは出場だ! すぐ行こう!」

普段はのほほん気味の船長さんだが、緊急時には頼りになる。
ムードメーカーとラストアンカーの役割を瞬時に切り替えられる。

命蓮寺組は橋の上で紅魔館組と合流した。
簡潔な情報交換の最中にも、レミリアは今にも飛び込まんばかりの形相。
吸血鬼である自分が流水、しかも濁流が相手では何もできないと頭では理解している。
それでもじっとはしていられない。
咲夜が当主のお腹に手を回し、がっちりホールドしている。

「流されてから結構な時間が経っているんだよね?
考えらるケースは三つ!」

村紗水蜜がこの場を仕切る。

「一つ目はいまだに流され続けている場合。
二つ目は川のどこかに引っかかっている場合。
三つ目はすでに川岸に打ち上げられている場合」

キャプテンは指を立てながら説明する。

「一つ目と二つ目は私が確認するよ!
皆は手分けして川の両岸を捜索して!」

頷いた一同が行動を起こそうとした時、パチュリーが疑念を口にした。

「ちょっと待って、この濁流の中、アナタ一人で確認できるの?
もっと川の中に人手を裂くべきなんじゃないの?」

至極真っ当な意見だ。
だが、元船幽霊は片目をつぶりながら軽く言う。

「大丈夫、水中は私だけで十分。
そこらの水妖と一緒にしないで」

「ムラサ! 頼みます! 気をつけて!」

「アイアイサー!」

寅丸のエールを受け、ムラサはすぐさま飛び込んだ。
だが、飛沫はまったく上がらなかった。
ぬるっと滑り込むように川に入っていった。

ムラサは水を掻き分けながら進むのではない。
元舟幽霊である彼女は限りなく水と【同化】するのだ。
通常の水妖とは違い、水中では【個】でなくなる。
自分と水との境界がなくなり、認識の及ぶ水域すべてが自分になる。
もちろん【個】として存在することもできるが。
海中で怨霊となり、人々の恐怖と怨嗟を蓄積した分類し難い強大な水の魔物【ムラサ】なのだ。

『私、水の中なら強いんだけどなー』

いつも軽い調子で言うが、ムラサに本気で水中に引きずり込まれたらかなり力のある魔物でも命はない。
それが海ならなおさらだ。
幻想郷に海はないのだが。

水中で意識体となったムラサは水流を遙かに上回る速度で下流へと進んでいった。

一方、川の右岸を咲夜と美鈴、左岸を寅丸と妖精メイドが進み始める。
レミリアとパチュリーは風を避けるように橋の脇にある大木の下に移動した。
この二人、今の状況では川岸を走って降りるのは無理だから。
何故か最も機動力のある姫海棠はたても二人と一緒に残った。

再び雨が降ってきた。

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