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紅魔の騎士ナズーリン!(8)

ナズーリンは気を失っているフランドールの髪を撫で付けてやっていた。
急流に飲み込まれてすぐに意識を失ったことが幸いしたのかフランはほとんど水を飲んでいないようだった。
目立った外傷も無い。
さすが吸血鬼、頑丈な体だ。
じきに目を覚ますだろう。

橋からかなり離れた川岸、風雨を避けられる木立まで何とか担いできて今に至る。

フランを追って飛び込んだナズーリンはすぐさま【耐水魔法】を展開した。
昔、ダンジョンで水責めにあい、死にかけたのでその後に苦労して身につけた魔法だ。
呼吸は問題ないが元より泳ぐことは苦手の一つ。
妹吸血鬼を確保するまでにかなり流されてしまった。

(やれやれ、こんなことになるとはね。
体が勝手に動いていたか…… 我ながら無茶をしたものだ。
おっと、お姫様のお目覚めだね)

もぞもぞっと動いたフランドールの目が開いた。

「具合はいかがか?」

「……ネズミの騎士さま? ここは?
あ! 私! 川に落ちて! 川に!」

「もう大丈夫、助けが来るまでここで待ちましょう」

「騎士さまが助けてくれたの?」

「【騎士】たる者【姫君】のために身を投げうつのは当然のことですよ」

「そんな…… あ、ヒドい怪我!」

ナズーリンの右ふくらはぎの半分ほどが青黒く変色している。

「大したことはありませんが、歩くことはできないようです」

激流の中、岩にぶつかってしまった。
骨にひびが入り、かなり内出血を起こしている。

「……痛いんでしょ? 私のせいで……
私の力では、こんなとき、なにもできない……」

「フランドールどの、気になさるな。
痛みは意識から切り離してあるので大丈夫ですよ」

落ち込むフランの頭を優しく撫でる。
こんな時まであくまで【騎士】として振舞うナズーリン。

「騎士さまは私を【妹】と呼ばないのね」

落ち着きを取り戻したように見えるフランがナズーリンに話しかける。

「もちろんレディ・スカーレットの妹君と存じ上げております。
しかし、フランドールどのはフランドールどのでしょう?」

事も無げに言った。

「う、うん……うふふ」

なんだかとても嬉しい。
今では尊敬する姉。
その妹と呼ばれることも嬉しいが、やはり続柄ではなく、個人として尊重されると格別の嬉しさがある。

「あのね、私、おかしかったのよ、今もおかしいのかも知れない」

突然の告白に賢将は慎重に答える。

「私にはそうは見えませんが?」

「今はとっても楽しいの、私、お姉様も皆も大好きだし。
……でも、怖いの。
いつかまた壊れてしまうんじゃないかって。
ワタシが、ワタシが! 自分で自分を壊してしまうんじゃないかって!」

フランが縋りついてきた。
この異常なシチュエーションで感情の振り幅が大きくなっているようだ。

その狂気ゆえフランはずっと屋敷の地下室に閉じこめられていた。
閉じこもっていた。
魔族の生まれながら、純粋で好奇心旺盛。
しかしながら常識という概念に疎く、加減を知らない危険な存在。
だが、異変以降、外に、他人に興味を向け始めた。
それでもこれほどの大きな不安を今でも抱えている。

「大丈夫ですよ。
こんな、これほど優しい娘さんがおかしいなんてありえない!」

フランの肩を掴んで真正面から告げる。

「……ほんと?」

掠れた弱々しい声。

(感情の波長が乱れ、振幅が極端に短くなるため短気を通り越し狂気に至ると聞く。
この娘の不安定な感情はもう少し修復しなくてはならないだろう。
もう一息だ、もう少しで【治る】はずだ。
狂気に至る波長か……【波長を操る程度の能力】を持っているモノがいたな。
ふふふ、また一つ永遠亭にお邪魔する理由が出来てしまったな)

「本当です、私が保証します」

「うん……」

「お二人は不思議な対ですね。
対抗する位置ではない、対照的でもない。
色彩で例えれば、レミリアどのは純粋な真紅。
フランどのはたくさんの色が複雑に組み合わさった華麗なコンビネーション。
比較するものではないでしょう。
私はフランどのの複雑さも好きですよ」

「ほんと? ほんとに?」

今この娘に必要なのは自己肯定の後押しだ。

「私は貴方に嘘は申しません。
……直にお姉様や紅魔館の皆さんが助けに来てくれますよ。
もう少し我慢して待つとしましょう」

そう言って柔らかい金髪を撫でた。

(はたて君がきっと何か手を打っているはずだ。
待っていて大丈夫だろう)

ナズーリンは一番弟子を名乗る鴉天狗を信頼している。

「うん……」

フランは自分の髪を優しく撫でてくれている騎士を見つめていた。
そしてその服装に違和感を覚えた。

「騎士さま、ペンダントは? 青いペンダントはどうしたの?」

「ん? ペンデュラム? どうやら流されてしまったみたいですね」

(ありゃー、まいったな。
良い石を探して、削って磨いて、魔力を込めて…… 面倒だが仕方ないか)

「え、そんな……」

「仕方のないことです」

「私のせいで……」

「心優しいフランドールどの。
気に病む必要はございませんよ」

「でも」

「貴方が無事だったのです、それで良いではありませんか」

「見つけたわ! 左の川岸……一里と少し先!」

パチュリーの探査網にアタリがきた。
すぐさま姫海棠はたてが飛び立つ。

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